コラム

ここちよさとともに、つくりつづけていく

・・・「大切なのは続けていること。10年も経てばなにかになっているよ」・・・

2024年11月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

11月に入り寒暖差が大きくなる日が増えましたね。朝の涼しさと日中の陽のさわやかさ、そして夜の布団のぬくもりのありがたみを感じる日々が訪れています。また今年もこの季節が巡ってきたことを感じながら、熱い珈琲をすする楽しみを味わっています。

さて今月の羊をめぐる旅コラムは、「ここちよさとともに、つくりつづけていく」と題して綴っていきたいと思います。

このコラムをお読みくださっている方の中にも、ものをつくる活動をされている方がいらっしゃるかもしれません。規模の大きな製造業としてや個人の作家活動として、または日々の暮らしのためになど、さまざまな仕事や場面でものをつくられていると思います。今日はそのなかで「ここちよさ」に視点をおいていってみます。

「大切なのは続けていること。10年も経てばなにかになっているよ」

これは私がとある草木染め作家さんに言われた言葉です。まだ作家活動を始めだした頃、埼玉県小川町あたりの小さな古民家で催されていたグループ展を訪れました。

そこにいらしたのは60代くらいの女性の方。力みがなく自然体で応対していた姿が印象的でした。たぶん、私自身がさぁこれからどうやっていこう、自分らしさを表現するにはなにをやる必要があるんだろう、と、目に力をいれ、頭を回転させている状態だったのもあるのだと思います。なおのことその姿が際立って感じられていました。

訪れるお客さんもどこかリラックスした様子で出入りし、会話を広げています。どんな風に経験を重ねていったらこんな活動になるんだろうと、作家さんにお声をかけてみました。そこで受け取ったのが上の言葉でした。

当時は「そうか!10年やればなんとかなるのか!」と、10年のほうに意識が向いて受け取っていましたが、最近あらためて思い返すと、「続けていること」の地道さと価値を感じるようになりました。集中して邁進できるときもあれば、心身の調和のずれから取り組むことができなくなったり、生活環境が整わずに負い目を感じることもあると思います。

そんな中で再び手を動かせたとき、肌や骨からの感覚を通じて、今じぶんが感じる「ここちよさ」が現れてくるときがあるでしょうか。もしそのここちよさが現れてきてくれたら、なににもならなくてもいい、だれかに評されなくてもいい、じぶん自身のここちよさのためだけに過ごせるものづくりを、再び味わうことができるのではないかと感じています。私自身はそのようになったとき、自分の中のエネルギーが高まり、他にも共鳴し、またものをつくる世界が広がっていくような心地になっていくようでした。

↑羊毛フェルト作家養成羊毛フェルト作家養成コースコース受講中の嶋浦さん

ゆらぎのあるなかで、細くも長く灯火を消す事なく続いていくこと。そのことがもたらしてくれる豊かさも、この人生には存在しているのです。そんな灯火がともる器が、心のなかにはいくつもあります。情熱、成果、成長など、心の器はいろいろありますが、ここちよさという器を思い出していくこともまた大切だと思います。

みなさんのここちよさの心の器はどんな形をしていて、どんな場所にあるでしょうか。いまの私のここちよさの器は、なんとなく、2cmくらいの深さの皿が天板になっていて、鍾乳洞の雫のように滴っていくようなイメージです。そんな想像も、ここちよさを意識するヒントになるかもしれません。

もちろんこのものづくりという面の高まりが他に取って代わるということもあると思います。それもまた人生。そういった分岐点もあるでしょうから、そのとき感じるここちよさを観ていただけたらと思います。

いのちは長いかもしれないし短いかもしれない。いや、そこに長短はないのかもしれません。ここちよさで繋がるじぶんの今と未来、そして他の存在との交流を、楽しんでいけたらいいなと思っています。


東京スピニングパーティーで出逢ったすべてのみなさまへ、

こころからの感謝を

・・・・・双方向のコミュニケーションが自然と起こるイベント・・・・・

2024年10月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

ようやく秋の装いが始まりそうな気候になり、わが家でも衣替えを始めました。
久しぶりに引き出した服たちは、まだ馴染むものもあれば違和感があるものもあり、季節の変化と共に自分自身の変化にも気づかされる機会になっています。

今月の羊をめぐる旅コラムは、先日出展いたしました「東京スピニングパーティー」のお話をさせていただきます!

東京スピニングパーティーは、

「日本で唯一のファイバーフェスティバルです。糸紡ぎから始まる染める・織る・編む・組む・縫うなどにかかわる人たちの勉強、情報交換・交流と作品発表の場です。」(東京スピニングパーティーHPより)。
全国より作品作家や素材、道具の販売など、ファイバーに関わる多くの人が集まり出展しています。その中で日本羊毛フェルト協会も、羊毛フェルトの作品を出品しました。

今年は羊毛フェルト人形キット「ニードーリ―」を中心に、キット販売・ワークショップ、作家作成の一点ものニードーリ―を販売していました。羊毛フェルト人形をつくるとき、型土台をつくるまでに大きな労力が必要だったり、そこまでの仕上がりがうまくいかずに断念してしまうことも多いのではないかと思います。ニードーリ―はこの型土台をあらかじめ準備した人形キットになっており、そんな序盤の労力をかけることなく、楽しいところから始められて、成功体験を感じやすくした羊毛フェルト人形キットなのです。

このスピニングパーティーに来場される方は手仕事や個人制作などに関わっている方も多く、同じような「言語」でやりとりができるんだなぁと感じています。それなので、このニードーリーが目指した「序盤の労力を省き、楽しいところからスタートする」という点を感覚でとらえてくださり、「たしかに!最初大変!これは助かる」とおっしゃっていただきながら共感できて、とても嬉しく楽しい機会となりました。中には昨年購入されてまた今年もという方も来店してくださり、少しずつニードーリ―の楽しさが伝わっていく様子を肌で感じられて感動をいただきました。

そして何よりも、出展者・来場される方ともに、手仕事への愛・好意があふれており、お客さまがそれぞれ出展者の表現を楽しみ、また出展者もお客さまの制作物を見せていただいて教えてもらうという、双方向のコミュニケーションが自然と起こり、ついついお話も長くなってしまうのです笑。あたたかな交流がそこらかしこで広がっていました。

また今年は主催である東京牧場さまのスタッフのなかに、高校生の姿も見られました。設営準備、受付での声掛け、最後の撤収の際の搬出作業まで、1日を通して動かれている様子があり、手仕事やそれに関わる世界に、未来を生きる人たちに触れてもらえることに有難みを感じます。この素朴な人間らしいやりとりが、必要な人たちへとつながっていきますように。

東京スピニングパーティーで出逢ったすべてのみなさまへ、こころからの感謝を申し上げ、またお会いできる日を楽しみにしております。

ぜひ出来上がったニードーリーを拝見させてくださいね!


もし過去に日本の羊飼いがいたら、どんな杖を使っているか

ーーーさすがはAI。固定概念の枠などお構いなしに飛び越えてきてくれますーーー

2024年9月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、OvisLampの嶋浦顕嶺です。

台風が上陸することが増えて各地の水の被害も多くなっておりますが、涼やかな空気が運ばれてくるなど、次の季節の訪れもまた感じるこの頃となりました。みなさんのご安全を祈りつつ、秋の訪れの豊かさに想いを馳せています。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、羊飼いの道具について書いていきたいと思います。

羊を飼育する仕事である羊飼いには、特有の道具が存在しています。羊毛を刈るためのハサミやバリカン、シープドッグ用の犬笛、自分の家畜にマークをつける金属製の道具といったものもあるようです。

その中で、羊飼いとよくセットで見かけるものとして、「杖」があります。みなさんも杖をもった羊飼いのイメージを思い浮かばせることもあるのではないでしょうか。

羊飼いにとっての「杖」は、羊にとっての捕食者である狼などを追い払う際の道具として使われたり、先端をフック状にすることで羊を誘導したり引っ張ったりすることに使われたりしています。他にも羊とともに不安定な地形を歩く際の支えとしても活用されることから、羊飼いにとって多様な場面で活用されてきた身近な道具なのです。羊飼育が盛んなイギリスの英国羊毛公社では、ステッキが象徴的に描かれたロゴマークになっていたりします。(英国羊毛公社日本支部HP

またスポーツの分野にもその影響は存在していて、羊飼いの杖を使って、石をウサギなどの動物の穴蔵へ打ち込んだものが「ゴルフ」のはじまりといった説もあり、羊飼いの杖が後世に与えた影響も感じることができます。羊の飼育が盛んであるイギリスならではの歴史を想像させられますね。

そういったイメージを広げていたら、ふと「それが日本の羊飼いだったら」という妄想が生まれてきました。そこで、昨今の生成AI時代。「もし過去に日本の羊飼いがいたら、どんな杖を使っているか」というお遊びに付き合ってもらい、生成されたのがこの画像です。


さすがはAI。固定概念の枠などお構いなしに飛び越えてきてくれます。和服に笠をかぶり、編み籠を腰に巻いています。そんな姿の人物が山間で羊を放牧している・・・もしかしたらこんなパラレルワールドもあったのかもと、思わず感じてしまうようなイラストです。みなさんにはどのように映っているでしょうか。

そしてそこに描かれた杖のなんと独特なこと。まるで武器のような様相を呈していますが、寄せ来る波が幾重にも施され、持ち手にまで細かく彫刻が刻まれたこの杖には、これまでの日本の文化や精神性も込められているようにも思え、とても興味深く思えました。(それとともに、デザインを志す作家にとっての、加速するインターネットによる影響と使い方も考えさせられます)

今月は羊飼いの道具に着目し、その中でも「杖」について想いを巡らせて参りました。独自の杖を使い込んでいく羊飼いのかっこよさ。そんな少年心もくすぐられるひとときでした。


ニードルフェルティング その可能性

ーーーーー今後のニードルフェルト作家への問いかけーーーーー

2024年08月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

酷暑と呼ばれるようになった時季が増えましたね。日本の四季は「五季」になったのではないかという表現もされるような気候になっています。それぞれの暮らしの中で、この暑さと向き合うことになっていることに、どんな意味があるのだろうと想像しています。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、ニードルフェルティングのエッセイ風でお送りします。

ニードルフェルティング。

羊毛をニードルという特殊な針を使って絡ませていく技法ですね。その歴史は明確ではないが、150年ほど前から行われていたと言われており、日本では2002年にハンドメイドフェルトの書籍の中でこの技法が紹介されています。対するハンドメイドフェルトは聖書にも記述があるくらい古い技法であることと比べると、歴史の浅さと認知の広がりのスピードを感じます。

私たちは今、ニードルフェルティングという技法の可能性を、どのくらい使っているのだろうか。国内外の作品を気軽に閲覧するのに、Pintarestを活用することがあります。「needle felting」と検索すると、世界のクリエイターのニードルフェルトが表示され、写実的なもの、アニメチックなもの、おおらかなものから精緻なものまで、実にさまざまな人がニードルフェルティングを行っている様子が垣間見ることができます。

↑ 佐々木のピンタレストのピンより

そんな大量の作品たちを眺めながら問いかけます。「私たちは今、ニードルフェルティングという技法の可能性を、どのくらい使っているのだろうか」と。また、「ニードルフェルティングにどんな”当たり前”を感じているのだろうか」と。

問いは、立ち止まることで現れてくる。習慣のなかに埋もれていることに光を当ててくれる。ニードルフェルティングをするときに自然と手にするその道具に、その素材に、その組み合わせに、まだ活用していない可能性はあるだろうか。その手の動かし方に、その成形に、他の動作で為し得ることはないだろうか。

100円均一で羊毛フェルト人形キットが販売されて手にとる人が増えている一方、素材や道具を扱うお店は固定化したり縮小したりしています。今後羊毛を使うニードルフェルティングはどんな道をゆくのでしょう。各個人がその個性を発揮していくとともに、「文化」と呼ばれるほどの多くの人がまとまるものになっていくとしたら、どんな活動が行われていくのだろう。みなさんだったら、どうするだろうか。

日本の羊の飼育頭数は、食肉種が中心です。かつて日本に衣料用羊毛の文化を作ろうとした時代があったが、戦争と海外との貿易の流れから、食肉用としての発展となったことが影響しているとのことです。

この日本で、多くの人に認知される力を持つニードルフェルティングという技法を、どう意識して扱っていきたいのか。今後の私たちフェルト作家やニードルフェルトに関わる人たちの発展に、ロマンを感じています。


羊毛フェルトで紫陽花をつくろう!ワークショップのお話

ーーーーーみんなで1つのものを作りあうことーーーーー

2024年07月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

一昔前の夏の暑さがすでに到来しているような気候となっていますが、みなさま心身ご健康でいらっしゃいますでしょうか。

どうしても湿度が上がってくるこの時季。さらっとした肌あたりになるウール製の肌着や掛け物など活用しながら、少しでも過ごしやすさを高めていけたらと思うこの頃です。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、羊毛フェルトワークショップを開催したお話をさせていただきます!

6月某日。

わたくし嶋浦が職員として勤めております、NPO法人育て上げネットさんにて、「羊毛フェルトで紫陽花をつくろう!」の回を催しました。

こちらのNPOは、若者就労支援をメインに行なっている事業所でして、さまざまな理由から就労や集団活動が困難な15〜39歳くらいの若者が、「働く、働き続ける」を実現していけるために支援をさせていただいている団体になります。その中で今回は、「ものづくりやイラストなど、制作活動が好きな若者たち」が、制作作業を通して一つの場でともに過ごすことを目的としたプログラム「工作広場」にて、ニードルフェルトのワークショップを行いました。

今回は利用者の方と一緒に企画を立てていったのですが、「作業がむずかしくならないもの」「みんなで1つのものを作りあうこと」という目的から選ばれたのが羊毛ニードルフェルトでした。各々が紫陽花の花びらを一枚一枚つくり、4枚1組の花をつくってまとめて大きな紫陽花にしようという取り組みです。打ち合わせや試作、道具の相談などをすべてこちらが準備するのではなく、利用者の方のアイデアやモチベーションを感じながら、ペースをあわせて進めていきます。

今回は初めてニードルを触る人でも指を刺しにくいように(刺すと萎える方もいますので…)、花びらの型をクリアファイルで作って、その中に羊毛を詰めて刺し固めるという手法をとりました。おかげで指を刺してしまう参加者はほとんどいませんでした。(お一人眠くなってふと刺してしまったという方がいらっしゃいましたが笑。)

また、100円均一のニードルと羊毛では固まり方が弱く、いわゆる「出来上がっていく楽しみ」が感じにくい部分がありますので、今回はCloverさんのニードルと染TAKEさんの羊毛を使用することにしました。

そうやって準備をすすめて迎えた当日。総勢10名ほどが集まる回となりスタートしました。口数が少ない方、手先が器用でない方、移り気気質の方など、多様な方が参加する中、2本指で持つ・ニードルはまっすぐ刺してまっすぐ抜くといったニードルの持ち方・刺し方のレクチャーからしっかりお伝えし、作業を始めていきました。なんと最後までニードルを折る方は一人もでず。すばらしい!

そんな大半が羊毛を触ることが初めてのメンバーでも、あのニードルを刺すサクサク音と沈黙の時間が広がっていく様子をみて、あらためてニードルフェルトの時間の価値を感じたのです。羊毛の手触り、色を混ぜる楽しみ、リズミカルに動かす手を聞こえてくる音と感触、そして作りあう楽しみ。どんなものができても正解も不正解もないという認識で進められる安心感。そんな世界観のきっかけを創り出せる羊毛ニードルフェルトが役立てる場所は、きっともっとあるのだろうなと思いました。やわらかい花びらや現実にはまだない色合いの花びらなど、各々が描く紫陽花の花びらを作りあって、あっという間に時間が過ぎていきました。

「集中できてよかった」「難しかった」「楽しかった」などなど、感想を口に出してシェアしながら、その日の場は閉じられていきます。事務所の待合スペースなどに飾っていけることを目標に、引き続き作業していこうと話し合っていますので、機会が合う方はぜひ若者たちの活動の成果をのぞきにきてみてくださいませ。

こうしたワークショップの出張開催もご相談いただけます。お役に立てる場がありましたら、当協会へのご連絡、または嶋浦宛でもかまいませんので、どうぞお声がけください。

NPO法人育て上げネット:[https://www.sodateage.net](https://www.sodateage.net)


「アルケミスト 夢を旅した少年(原題 THE ALCHEMIST)」

ーーーーー羊たちの時間を感じ羊たちとの生の時間を持ち合うことで、醸成されるやりとりーーーーー

2024年06月


こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

梅雨前の涼やかな気候を味わい、緑がうけとめる雨を慈しむ時季になってまいりました。目の前のものだけにとらわれることなく、多様な視野を意識しながら現れるものを大切にしていきたいところです。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは羊飼いの物語についてのお話です。

先月は長野県東御市にあるSASAKI FARMさんでの羊の毛刈りとシェアラーに関してのコラムを書きました。今月は少し趣向を変え、その羊を飼う仕事が出てくる物語をご紹介したいと思います。

羊飼いが登場する物語はいろいろありますが、私が出逢ったもので印象に残っているのは「アルケミスト 夢を旅した少年(原題 THE ALCHEMIST)」。1947年ブラジル生まれの著者パウロ・コエーリョ」の小説です。

サンチャゴという羊飼いの少年が、スペインのアンダルシアで、羊たちのための新しい草が生えるところへ歩き回るという描写から物語は始まります。彼は神父になることをやめ、旅がしたいと親に話し羊飼いとなっていきます。「彼はすでに二年間、羊たちと一緒に生活し、食べ物と水を求めて歩きまわっていた。『羊たちは、 僕に慣れて、僕の時間割を知ってしまったみたいだ。』…ちょっと考えてから、それは逆かもしれないと気がついた。自分が羊たちの時間割りに、慣れたのかもしれなかった。(P.8)」といった記述があるような、生活をともにする暮らしが、この物語の、または遊牧としての羊飼いのひとつの姿なのかもしれません。

また「彼らは食べ物と水さえあれば満足していた。そのかわり、彼らは羊毛と友情、そしてたった一度だけだが、自分の肉を気前よく与えてくれた。(P.11)」との言葉が綴られています。普段の私たちの暮らしのなかでは、中々羊から友情を想像することはないのではないでしょうか。羊たちの時間を感じ、羊たちとの生の時間を持ち合うことで、醸成されるやりとりのように感じました。そして羊たちとも友情を感じあえる機会というものをうらやましくも思うのです。

この物語では、「前兆」を大切にしています。「前兆」に気がつき、それに従っていくことで、導かれ辿り着くところがあること。何に前兆を感じるでしょうか。ある人は通り過ぎる風に前兆を感じるかもしれないし、ある人はひらひらと舞う蝶に感じるかもしれません。その目に見える奥にあるなにかに気づくことで、至ることがあるのだとこの本は伝えてきてくれます。話の中で何度か語られる「マクトゥーブ(それは書かれている)」という言葉とともに。

羊飼いの少年であるサンチャゴが、羊たちとの暮らしを経て、夢を信じて旅する物語。

この物語を読んだとき、あなたの五感と六感に舞い込む前兆が、あなたの夢へとつづくきっかけとして訪れることを願います。

「アルケミスト」 パウロ・コエーリョ/山川紘矢+山川亜希子 訳 角川文庫


シェアラー=職人=日本の羊毛

ーーーーー長野県SASAKI FARM・毛刈り見学会に行ってきたーーーーー

2024年05月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

こちら埼玉では、入学の時期に桜がよく咲き、穏やかな気候の4月が過ぎていきました。早くも初夏の日差しが感じられる日もありますね。こんなときにもサラッと使えるウールの靴下や肌掛けが重宝しているこの頃です。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、羊の毛を刈る職人!シェアラーさん見学記をお届けします。

みなさんは「シープシェアラー(sheep shearer)」という職業をご存知でしょうか。

「shearer」とは「毛を刈る人」という意味の言葉で、羊(ときにはアルパカなど)の毛を刈ることを専門職としている人のことです。羊は毎年1回、人によって体の毛を刈られます。長年の品種改良により、自然と毛が抜け落ちずに収穫できる羊が育成されてきたため、人間が羊毛を刈る必要があるのです。春先、日本でいう3〜5月の頃は羊の毛刈りシーズンで、シェアラーの方は日本全国の牧場や羊のいるところに赴き、毛を刈るとまた次の地へ向かうという仕事をされています。中には世界に出かける方もおり、1年を通して毛を刈り続けることもあるようです。

余談ですが、羊にまつわる仕事は他にもあり、羊を飼う羊飼い、羊毛の格付けをするクラッサー、羊毛を糸に紡ぐスピナー、絨毯などの織り仕事、食肉に加工する仕事や調理する人も多くいらっしゃいます。このように衣食住すべてに関わりが生んでくれるのが羊の特徴です。

さてそんな羊の毛刈りについてですが、今回ご縁をいただいて、シェアラーさんによる毛刈りの見学会に参加させていただくことができました。場所は長野県東御市にある「SASAKI FARM」さんです。

こちらでは主に食肉用の羊を飼育されており、品種はツノなし黒い頭のサフォークです。

サフォークの羊毛の特徴は、白色で弾力があるタイプ。むちむちした毛は、糸や編み物の材料として使われることが多く、ハンドメイドフェルトよりニードルフェルトに適していることが多いと感じます。繊維の特徴などの数値的な部分は、本出ますみさんの書籍「羊の本(スピナッツ出版」などにも記載されています。

「ようこそ。とはいえ今は戦場状態なので、あまりお構いができないかもしれません」

という佐々木さんのご挨拶のように、毛刈り場に移動させるためのスペースへの羊の誘導、逃げ出そうと抵抗する羊、大人しくしたかと思えば頭突きで突進してくる羊を押さえ込む従業員、外では刈られた羊がなにやら鳴き続けている…といった具合で、やはりそこは生き物相手。油断をすると怪我をしてしまう場に、安全に配慮されているとはいえ、気を引き締めて見学をさせていただいていました。

その中で、1頭の羊を抱え込んで鮮やかに毛を刈り進めているのがシェアラーさんです。羊の足や首を上手に手足で固定しながら、暴れ出す羊の様子をみながら一気にバリカンで毛を刈っていきます。その作業は観ていて飽きず、一体一体違う体や性格の羊と対話しながら、全体の毛がバラバラではなくひとつなぎの羊毛となるように進めていく。これはいざ羊毛を加工しようとした際に、羊のどの部位の羊毛なのかがわかりやすくなるので、目的に応じて毛を使い分けやすくもなるのです。素人目には、首がもげてしまうんじゃないかとか内臓圧迫になっちゃうんじゃないかというほどグイグイ固定しているようにもみえるのですが、そこはさすがの関係性で、刈られ終わった羊たちは一目散に走り去って、まきばの草をモシャモシャと食んでいました。

そんなシェアラーの人たちを、佐々木さんは「職人さん」と表現されていました。

羊たちへの向き合い方、道具と場の扱い方、この仕事や文化に対する想い。

その言葉に違うことのないお姿がそこにはありました。

こうして世界の羊は、一頭一頭、人の手で毛を刈られていきます。その中にはSASAKI FARMさんでの毛刈りのように、愛ある職人とその毛を楽しみにしている作家さんたちに囲まれて刈られるような場面だけではないかもしれません。わたしたちが何気なく使っている「ウール」は、どのような羊から届けられたものなのだろうと想像を広げさせてもらいます。

日本では歴史的にも食肉としての羊文化が多く、羊毛利用としての羊文化はどこか副産物的な面が多いと思います。

需要と供給、生育気候等懸案はたくさんありますが、さまざまな毛をもつ羊を日本国内で、恵みをいただきながら共に生活していく暮らしも、想像したりしています。

これからも羊の毛を有難く楽しく!よい関わりが続いていけますように。

執筆者:嶋浦 顕嶺

羊毛を知ってくれる人が1人でも増えたと思えたら満足

ーーーーー認定作家・講師 MAKIKO インタビュー ーーーーー

2024年4月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lamp の嶋浦顕嶺です。

4 月に入り、新年度を迎える方たちも多いでしょうか。今年は寒さの残りや雨もあってか、 桜の開花がゆっくりですね。ヒトと社会の流れだけにとらわれず、焦らず急がず季節を楽し んでいきたいところです。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、作家インタビュー第〇弾!当協会認定講師の merituuli の MAKIKO さんです。MAKIKO さんは 2018 年の第 11 期生として作家養成コースを受講 され、翌年に認定講師のカリキュラムを修了されました。 持ち前の感性をいかして、ハンドメイドフェルトもニードルフェルトも扱っていく MAKIKO さんにはどんな物語があったのでしょうか。どうぞお読みくださいませ!

MAKIKO さんと羊毛フェルトとの出逢いは、ネットで見かけたフェルトコースターづくり の動画でした。それを見つけたときは「縫わないからこれならできそう」と感じられたのだ と言います。そんな思いを抱いた方も多いのではないでしょうか!そして手芸屋さんにい き、羊毛を買い、見様見真似でやってみたところ、「あ!意外とうまくいった!」という経 験をされたそうです。

この最初の感覚は、後々MAKIKO さんの大事な感覚になっていくのでした。

それからというもの、もう少しいろいろ作ってみたいなと思うようになり、本屋さんにいっ て当協会の佐々木伸子の本を見つけ、レースとフェルトとの組み合わせ作品や、デザインな どに興味を広げていったようです。

制作活動を楽しんでいた中で、お友達からの購入のご要望が出てきたり、お子さんの幼稚園 での文化講習のお話がきたりして、ワークショップ的な講習を開くことが出てきたのだと いいます。

そうして 1 年くらい独学でやっていくうちに、「人に教えるなら独学だけではなく、ちゃん と学んで教えたい」という気持ちが芽生え、愛読していた佐々木伸子の本から協会を知り、 作家養成コースの門を訪ねたのでした。

MAKIKO さんはご自身の性格の中に「飽き性なところがある」と言われます。革や刺繍な どいろいろ手をつけてみたけど長続きしなかった。その中でなぜか羊毛フェルトは続いて いる。その理由のひとつが「やりやすさ、入りやすさ」をあげていました。これは、ご自身で開かれている羊毛フェルト講座の受講生の方とのやりとりからも感じられているようで すが、ミシンなどの道具の準備も少なく、羊毛を並べて石鹸水かけて擦ったらもうできちゃ う!簡単にできちゃうものがあるというところが魅力のひとつ。もっとみんなに知ってほ しい。こんなに楽しいんだから、みんなも楽しいんじゃないか!その楽しさ・感覚・感情を を共感共有しながらつくれることが、MAKIKO さんの楽しみであると話されてました。 最初の一回目の出逢いの大切さ。自分もコースターづくりがうまくいったから、飽き性でも 「できた!楽しい」で続けることができたんじゃないか。うまくできていなかったら、「やっ ぱり私には無理かな。できないかな」だと続かないかもしれない。だからこそ、羊毛に出逢 う人の最初の体験を大事にしたいと話されていました。

こうやって羊毛について語り合える。そういう人が身近にいることに嬉しさを感じている ことに気づいた MAKIKO さんは、他の人に教えてつくって、羊毛のことを知ってもらえて、 羊毛のことについて話ができるようになっていくことが、自分の大きな楽しさ・活力になっ ていくことを実感してくのでした。

生徒さんからリクエストで、羊毛フェルトでパンを作りたいという声があったところ、自分 でつくってみないと教えられないということで製作練習を始めたといいます。その中でパ ンの表面の配色をしているときに、おいしそうに見える色と焦げくさそうに見える色って ちょっとの差なんじゃないかと感じられたのだそうです。これまでは色選びは感覚でパッ と選んでいたけれど、パンから受けるかんじを味わいながら選色をしてみると、色って深 い・色って大事という感覚を実感されているようでした。

MAKIKO さんの最近の興味ごとは、お菓子作りと観葉植物。そんなところにも色選びの感 性や体感覚が垣間見えるようでした。

MAKIKO さんの作品作りについて。ご覧になったことがある方は感じられているかもしれ ませんが、MAKIKO さんといえば「青色の作品」が特徴的です。青から連想されるのは空 や海。その青の諧調の豊かさや、鳥や雲や波しぶきのようなそこに存在するものたちを、直 感的に表現されているようにも感じられます。 作りたいと思えたものを作っている。目の前の制作と想像に没頭する。それが至福だといい ます。デザインの下書きはほとんどなく、浮かんでくるものを即興のように形に落としてい く。 作品を求められる方のなかにも、そういった「青の中の世界」や「素直な至福感」に惹かれ る方も多いのではないでしょうか。

今後力を入れていきたいことは、ワークショップだといいます。現在は公民館教室から端を 発した羊毛フェルトサークルの講師としての活動や、自宅を改装しての自宅教室も始めら れています。大切にしていることは「羊毛っていいな、楽しいんだな」と思ってもらえるワ ークショップであること。「もしタイミングで参加者さんが一人だけでも、その一人に羊毛 の楽しさが伝わってくれたらもう万々歳。羊毛を知ってくれる人が一人増えたと思えたら、 私は満足です」とお話されていました。ご興味湧いた方はぜひ Instagram 等で情報をご覧に なってみてくださいね。

そんな羊毛ライフを過ごされている MAKIKO さんにとって日本羊毛フェルト協会と自分 とは、すごい大事なつながり。羊毛をやっていくうえでなくてはならないところ。色んな人 との縁がつながり、上下関係がなく、ざっくばらんにいろんなことが相談できて、惜しみな く自分の技術を教えてくれて、こんなアットホームな協会がないんじゃないかと感じられ ているとのことでした。羊毛についても語り合え、わかんないことがあったら聞ける場所。 これからもこういう場所があってくれると嬉しいな。本当、飛び込んでよかったなと私は思 いますと語られています。

ご自身の怪我があって中々身体が自由にできず、「もう羊毛できないかな、協会も続けられ ないかな」と思ったときもあったけど、作れなくても協会の仲間の存在が片隅にいて見守っ てくれているように感じられる、大事な居場所であってくれているようでした。

今回 MAKIKO さんのお話をいろいろ聴かせていただき、人となりや羊毛フェルトライフか ら垣間見える物語や感性を感じさせていただきました。これまでの想いからどんなものこ とがつながっていき、生まれていくのでしょうか。 今年は感謝の年にされたいとおっしゃっていました。支えてくれてありがとうという気持 ちを持ちながら、関わっていきたいないう言葉を場に置きながら、インタビューを閉じてい きました。

ご拝読ありがとうございました。

《ブランド》

「merituuli」(メリトゥーリ)

いつもの生活をちょっと楽しくするようなキッチン雑貨やアクセサリーを一つ一つ丁寧に作っています。

船橋市在住

雑貨屋で羊毛のコースターを見て、自分で作ったのをきっかけに羊毛フェルトにどっぷりはまり、佐々木先生に憧れ、協会の門戸を叩き、現在認定作家に至る。


ハンドメイドフェルト(水フェルト)の可能性について

2024/3月更新

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

3月に入り、最低気温と最高気温の差が大きくなってきました。日中の暖かさとは反対に朝晩の冷え込みが残るところ、まだしばらくは冬グッズにお世話になりそうです。体調や自律神経に影響が強まりそうなこの時季。取り外しのしやすいマフラーやレッグカバーなどを使いながら、どうぞご自愛ください。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、ハンドメイドフェルト(水フェルト)の可能性について論じてまいりたいと思います。

以前にもテーマにあがりましたハンドメイドフェルトですが、少しおさらいをいたします。

羊毛を使って形を作るとき、いくつかの手法があります。糸を紡ぐことで作り出す編み、織り。ニードルという道具を使って絡め固めるニードルフェルト。そして石鹸水溶液を使って縮絨させるハンドメイドフェルトなどがあります。

今回その中から取り上げるハンドメイドフェルトは、羊毛に化学変化を起こして密度を高めて生地にしていくことで、造形していく手法になります。形として仕上がっていく工程パターンと仕上がるもののバリエーションが、とても多様であることが魅力のひとつだと感じています。

そこにはどんな可能性が秘められているのでしょうか。数ある中から今回5つピックアップしてみましたので、書き記していきたいと思います。

1、大きいものが作れる

ハンドメイドフェルトは、小さな卓上コースターから衣類・敷物・大きなテント生地などと、幅広い大きさのものを作れる可能性をもっています。作業スペースと棒やシートといった道具を用意しさえすれば、あとはどのくらい羊毛を敷いていくかによって、あなたのフェルト作品の大きさを広げてくれます。自宅のテーブルの範囲分しか作れない、一人では大きなものは作れないという思い込みを一旦脇に置いたとき、どんなものを作ってみたいですか?肌掛け布団、間仕切りカーテン、アウトドアシート、二人掛けブランケットなど、そのサイズは想像より広がっていけるのではないでしょうか。

↓ 羊のタペストリー(約120cm×90cm)WoolFeltLab佐々木伸子作

2、厚みのつくりやすさ

作りたいものによって、目指したい生地の厚みがあると思います。例えばマフラーではしなやかさが保たれる薄さを。バッグでは引っ張っても破けない丈夫さを。敷物では丸めてしまえるほどの柔軟さを。それぞれに適した厚みがあると思います。

そんな厚みの調整を、ハンドメイドフェルトでは羊毛を重ねる量で調整していきます。メリノウールのスライバーならば、ほぐした羊毛を縦横何回置いていくのか。サウスダウンのロール状のものならば、ちぎった羊毛をどれくらいの高さまで重ねていくのか、など。回数で、高さで、量で、仕上がりの厚みを目視しながらフェルト化の準備を行なっていくことができるのです。

一度縮絨をさせてしまうと、そこからさらに厚みを増させるフェルト化は難しいですが、経験と知識が着実に貯まっていき、それぞれの作品に必要な耐久性や質感の調整にもつながっていきます。

3、他素材との混ぜ合わせ

ハンドメイドフェルトでは、羊毛と他素材との混ぜ合わせ・組み合わせも行なっていくことができます。羊毛を並べて縮絨させる前に、その表面に絹や植物繊維を置いて模様にしたり、石や木などに羊毛で巻いて縮絨させて一つの作品にしたりと、他素材との混ぜ合わせや質感の組み合わせを楽しんでいくことができます。それによって、羊毛の違った表情が引き出されることや、これまで使っていたものの変容から、新たな可能性がみえてくることもあるでしょう。

「羊毛は羊毛だけ」という概念を手放した時、ハンドメイドフェルトはより幅広い発想を受け容れてくれるのです。

↓Littl Woolさんの羊毛を挟んだ綿マフラー


4、土への循環性

土から育まれた生命のひとつである羊だからこそ、その身に纏う羊毛もまた土へと還っていける素材となっています。大地から生まれ、育み、その毛を活用し、土に戻して養分となり草となる。そしてまた育まれていくという循環の中で、羊毛を使っていくことができます。より環境への配慮をするのであれば、天然石鹸を使用する、自然の色味を活かす、または土壌バランスを崩す恐れのある物質を使った染色を避ける等、自然物を使用した加工を施すことができます。

天然成分だからこその分解性・循環性を活かし、命の巡りのなかのものづくりをしていくことができるのです。

5、模様表現へのチャレンジ

ハンドメイドフェルトでは、縮絨前の羊毛を並べる工程で、様々な工夫を行うことができます。

違う色や品種の羊毛を並べたり、形作ったプレフェルト(シート状の半フェルト化状態の生地)で形どったものを並べたり、毛糸で線を描くこともできます。そうして並べられたものたちは、まるでキャンバスの上に描かれた柄模様や絵画のようにもなります。羊毛を敷き詰めた平面の上に、自分の表現を上乗せしていける特徴を活かし、作品づくりの幅を広げていくことができるのです。

↓ Koyunさんのフリルのバック 

いかがでしたでしょうか。今月はハンドメイドフェルトの手法について、再度文を綴ってまいりました。机とタオルと石鹸水。身の回りにある道具で作品作りをしていけることも、この手法の魅力のひとつです。

そんな身近な手法に想いをのせ、ご自身の感覚感性を、ハンドメイドフェルトで表現をされてみてはいかがでしょうか。


楽しむことを思い出させてくれたもの

ーーーーー認定作家・bedlingPON インタビュー ーーーーー

2024年2月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

2月に入り、ところによってはぬくもりある日差しを感じる日も出てきているでしょうか。とはいえまだまだ寒の時期。手首・足首・首の三首を温めて心身を大事にしてまいりましょう。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、引き続き作家インタビューです!今回登場してくださるのは、bedlingPONのyumeさんです。yumeさんは2022年に当協会の認定作家になられ、わんちゃん関連の作品やモチーフを中心に制作活動をされています。そんな新進気鋭のyumeさんにはどのような物語があるのでしょうか。どうぞお読みください!

yumeさんの羊毛フェルトとの出逢いは、中学時代・高校受験のころでした。幼馴染と「同じ高校いけたらいいね」と話しているとき、たまたま立ち寄った100均でアルパカの羊毛フェルト人形キットを見つけたのでした。「かわいいなぁ」と言いながら、「これを作り合って交換して願掛けにしよう!」と贈り合ったのが、最初の出逢いであり、初めての作品になりました。そんな願いも届いてか、無事に高校には合格!眺めるたびに思い出が蘇る、大事な一品になっているようです。

*このアルパカさんは交換したお友達が作ったもの

また一方で羊毛フェルトとの出逢いの前には、おばあちゃんとの時間があったといいます。おばあちゃんはよく手仕事をされるようで、小さいころにその様子を隣で見たり一緒にものづくりしたりしていたといいます。そんな手仕事の体験が、yumeさんの中に息づき、制作作品の中にも生かされているのを感じられます。

そうした羊毛フェルトとの出逢いが中学期にありましたが、次に再会するのは社会人になってからのことになりました。

働き始めて色々しんどいなぁとなっていた時期。好きな漫画も買ったきりそのままになってしまっていて、何するにもあんまり楽しくない状態だったことがあったと言います。

そんなときに、急に「そういえば作ったことあったな」と思い出した羊毛フェルト。わが家には犬もいるし、なんか作ってみようかなと手をつけたのでした。

そんな思い付きから家族の犬たちを作ってみると、「え!楽しい!!いろいろ作ってみたいかも!」と久々に楽しさと意欲がわいてきて、instagramでリアルな犬作品をみたり、モルカーをみたりしていたら、羊毛フェルトってこんなにいろんなものがつくれるのか!という気持ちにさせてくれたのでした。こうやってyumeさんにとって羊毛フェルトが、「楽しむことを思い出させてくれたもの」となっていったのです。

そこまでの高まりを与えてくれた羊毛フェルト。そこではなにが響いたのでしょうか。あらためて問うてみると、大好きな飼っているわんちゃんたちの存在がありました。色々しんどいなとなっていた時期、送り迎えの車についてきたり、気持ちを察して寄り添ってきたり、どれだけネガティブになっても「家にいるしな」と思わせてくれる。心身ともに助けられた存在だといいます。

そんな存在たちを、もしかしたら形にできるんじゃないか。手のひらサイズとかかわいいな。離れていても見守ってくれることができるのかも。というような想いを感じられたようです。そうやって、羊毛フェルトとわんちゃんが掛け合わさって、yumeさんの中に羊毛フェルトで作るということが生まれていったのです。

今現在、yumeさんが興味を抱いているものの一つに、絵を描くことがあるとのことです。小さいころから絵本を読んだり漫画を読んだりして楽しんでいた中で、漫画から写し絵をしたり、ワンシーンを取り出して描いたりしていたといいます。そんな感性が、yumeさん作品のキャラの愛らしさにも繋がっているのだろうなと思わせられる一面でした。

そして最近あらためてモルカーを作ってみたというのですが、以前にキットから作ったのとは違い、今回は0から自家用車風にデザインしながら制作したとのこと!硬さも出して、模様もオリジナルになって、自身の進化を垣間見るタイミングとなったようです!

また一方で、今後の制作のひとつとして、フェルトのひな人形を考えているそうです。ヒト型にしようか、自分の家の犬型にしようか、どんなかんじにしよう~と楽し気に語っておられます。そうするとオスの子もいるから兜もいるなぁ、季節もので着せ替えバージョンもいいかも!なんて話も飛び出したり。その季節に飾られて、大切にしまってまた来年お目見えする。そんな長く大切に楽しんでもらうことができたらいいなと、話されていました。時季時季で送られる着せ替えキットなんていうものも、わくわく豊かなかんじがしますね。

そんなyumeさんが感じているご自身の感性。小さいころからアウトドアよりインドア派だった性格から、色水遊びやおままごとなど、手で何かする遊びが好きだったといいます。細かく集中することが得意なこと、ご自身の心配性(気づけちゃう)のところから、より丁寧に、慎重に仕上げていける力があるのではないかと話していました。あぁ、だからあのブローチが出来上がるんですね!とうなづけるエピソードがありました。みなさんもご覧になると感じられるかと思います。あのブローチの縁取り刺繍の丁寧さとか・・・!ぜひ展示会等で見ていただけたらと思います。

さらに、yumeさんの美的感覚について伺いました。あえて言えば、リアルさ、細かさへの関心があるのではないかということです。他の人の犬の製作を見ていても、歯を一つずつ作ったり、鼻をロウをつかって艶感を出したりする工夫に対して、目がいくそうです。それはひとえに「細かなところに気づける」という長所と、犬という存在や作品クオリティへの想いの高さが奏功しているように感じました。そういったリアルさへの追求の意識に、yumeさんの美的感覚があるように思います。

そして作品に対して込めている想い。その大きなものの1つに、買う人だけでなく、わんちゃんにも気持ちよく使ってもらいたいという想いがあります。わんちゃん目線での心地よさや主観(こう思っているかなー?という想像や観察)を大事にして、着心地や気に入ってくれる色味かななどをよくよく想像する。しんどい時期に支えてくれた存在たちであるわんちゃん。わんちゃんからたくさんのものを受け取ったyumeさんだからこその想いがそこにはありました。

ここまでいろんなお話を伺ってきたyumeさんにとって、日本羊毛フェルト協会と自分とは。それは、基礎から学べる、技術が学べる、楽しく刺激を受け合えるところ。人によってつくるものがみんな違って、自分が作りたいものをつくって認め合える自由さ。そういった人たちが集まる場所であるという印象とのことです。それぞれがそれぞれの制作を目指して、必要な技術や情報は交換し合えることができる集団は、気負いしすぎず居れるところになっているのかもしれません。

今後もいろんな交流をしていけることを楽しみにしております。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

このインタビューを行っていくたびに、それぞれの人生のなかでの羊や羊毛、羊毛フェルトとの出逢いがあって、繋がりが生まれていく様を感じさせてもらっています。

これからもいろんな方の人生の中に、羊や羊毛の恵みが届いていきますように。



bedlingPON (ベドリンポン)

犬をより好きになるきっかけになった愛犬まりんの犬種ベドリントン•テリア(Bedlington Terrier)と、2代目愛犬チャイニーズ•クレステッド•ドッグのぽんたの名前を合わせたブランド名です。

わんちゃんを中心に羊毛フェルトでマスコットやブローチを作っています。

思わず笑顔になるような、温かみのある可愛らしい作品になることを目指して、1つずつ丁寧に手作りをしています。

SNS bedling.pon

可能性・奥深さ・自由

ーーーーーひつじの学校 校長 佐々木 伸子インタビュー ーーーーー

2024/1月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

2024年はじまりより、各所で大変なことが生じ、穏やかならぬ心境の方も多くいらっしゃることかと思います。皆様の日常に少しずつでも、安心できる時間が増えていくことを願います。

さて、話は変わり今月の羊をめぐる旅コラムは、作家インタビュー第7弾です。

今回登場するのは、当協会の代表である佐々木伸子さんです!これまでいろんな話を聞いてこられた協会メンバーのみなさんも、書籍でしか見たことのない愛読者のみなさまも、佐々木さんの物語の一幕をお楽しみいただけたらと思います。それではご拝読くださいませ!

佐々木さんと羊毛・羊毛フェルトとの出逢いは、30歳のときにユザワヤで見かけたプロモーションビデオ。それは1時間くらいの「羊毛フェルトをつくる民族の方の映像」でした。帽子を作っているようだったのですが、なぜか縫い目もないのに被り物になっている。刺し子もないのに民族柄ができている。これはなぜなんだ…フシギ…ということで、もう1回ビデオを観たのでした。続けてまた1時間ほど。

その後、羊毛と橘紀子さんの本を買って帰って、初めての羊毛フェルトづくりをしてみたのですが、結果は雑巾みたいなべろんべろんのコースターが出来上がることに!これでいいのかなぁ…というのが初めての作品だったようです。

今よりまだ羊毛フェルトがメジャーではなかった時期。自分でなんとか見い出していかなければならなかった状況に、作って形になっていく不思議さと楽しさを味わっていたのでした。

そんな出逢いがありながら、佐々木さんが羊毛フェルトに感じていること。それは「可能性・奥深さ・自由」という言葉で表現されていました。「羊毛フェルトにはそれらが既に内包されていて、なおかつ自分より先に存在していたところに、私は羊毛フェルトを通じてそれに気づかされていっている」感覚があるとのことです。

継続的に学ばれているコーチングや無意識コミュニケーションで論理的に「可能性・奥深さ・自由」の価値を知っていく一方、羊毛フェルトは感覚的にそれを教えてくれる。出逢い始めは不思議さ楽しさを感じていたけど、今は品種・個体差など千差万別な違いから現れる奥深さや可能性を味わうことができる。そんなことを羊毛フェルトから受け取っているのでした。

今興味を持っているのは、「洋裁×羊毛フェルト」。羊毛フェルトの「軽い&あたたかい」という特徴を生かし、型紙から仕立てて衣類を作ってみたいという興味が湧いているとのことです。さらに、その中で目指したいことに「流行の中の変わらない黄金比率。意識的ではないバランスの追求」があるといいます。展示会等で作品をご覧になったことのある方は、この言葉かもら佐々木さんの培った(備わった)美意識を感じるのではないでしょうか。

そんな作品に込められているものは?という問いに対し、「特にないです!」といいつつも、後から話された話が印象的でした。「とにかく私は羊毛フェルトが楽しくてしょうがない!こんなんできちゃったよー!」という気持ちを抱きながら制作しているというのです。2023年の展示会でも出されていたアルミバネのバッグ、絹糸を混ぜたスヌード、原毛を活かしたブローチなど、その気持ちが移ったような作品が並べられていました。まさに作り手の個性と想いが込もった作品だったように感じます。

こうしてインタビューも後半に入り、「協会と自分」という問いを投げかけました。日本羊毛フェルト協会を立ち上げた佐々木さんにとって、協会と自分とは。

「協会と自分。それは、一体であり、全く別のものでもある。すごい親友のような感じもするけど、いわゆる法人というかんじもある。ともに過ごしてきた戦友のような感覚もある。結局は自分がどう思うかで、様々な姿になる存在。始めたのは震災の時で、もう明日ってないんだなって思い、じゃあ今やらなきゃ。と思うに至って自ら法務局にいったのを思い出します。」

仲間と協会、自分と協会、世の中と協会。いろんな場面に立ち会いながら向き合ってきた協会は、楽しさもありながら重たく感じるときもあり、その運営に悩んだこともたくさんあったとのこと。

それでも続けてきた中、コーチングや心理学を学び受けることで自分自身の考え方が変化して気持ちが軽く自由になっていったり、仲間との楽しい交流が支えになったりしてきたといいます。

そのような時をともにして、見守ってきてくれた協会のメンバーには、感謝しかない。奇跡といったら大げさかもしれないけれど、距離感が絶妙な仲間たち。普段の生活の中では占めている割合は少ないだろうけど、すごい小さい範囲内でそれぞれの頭の中に協会がちょっと在るというのがとても心地よいかんじがする。何かのときはワッと集まって、普段はそれぞれつかず離れず。それは佐々木さんにとって癒しであり原動力になっていると語っています。

あってよかったな。

そう、振り返っていました。

最後に佐々木さんからの一言をご紹介して、このインタビューを閉じていきます。

羊毛フェルトって、楽しいんです。叫びたいほどに。そこに尽きます。

羊毛フェルトって楽しい!ひつじすげー!

そんなふうにいっしょに集まりたいみなさま、いつでも門を開いていますよ!

「羊毛フェルト研究室」主宰

ひつじの学校校長/(社)日本羊毛フェルト協会理事

羊毛フェルト本9冊を出版。

羊毛フェルトとと自身の在り方を追求中。

羊毛フェルト楽しー!羊すげー!と叫びたい人ぜひぜひ繋がってください。

羊毛フェルト研究室

ひつじの学校

一般社団法人 日本羊毛フェルト協会


より羊毛でできる灯りの光を追い求めたい・気づきたい

ーーー認定作家 Ovis Lampインタビュー・自問自答ーー

2023/12月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺です。

白い雪虫が飛び始めた時季があっという間に過ぎ、いよいよ今年も残りわずかとなってまいりました。2023年は、みなさんにとってどのような年になりましたでしょうか。

新しい環境に入った方もいらっしゃれば、今いる場所で日々頑張っている方もいらっしゃるかと思います。楽しいことも大変なことも、あったのではないでしょうか。

この激動の日々を今日ここまで過ごされた皆さま。大変、たいへんお疲れ様でした。

さて、今月お届けします作家インタビュー紹介は、私Ovis Lampの嶋浦のインタビューと回答を自問自答形式でお届けいたします!羊毛と照明の接点や羊と羊毛への関心の深まりポイントなどなぞっています。それではどうぞお楽しみください*

羊毛・羊毛フェルトとの出会いは?

初めて羊毛フェルトに出会ったのは、2016年頃だと思います。きっかけは、インテリアショップに飾られていた化学繊維フェルトの照明に惹かれて、「フェルトってなに?」と検索し始めたことでした。照明に関心を持っていましたが、フェルトは初めて。その軽さと大きさが魅力的でした。

調べたらフェルトは元々羊の毛から作られるもので、どうやら自分でもできるらしいといういうことがわかり、ネットで羊毛を買い、YouTube先生を見て独学でハンドメイドフェルトを作り始めました。最初は小さいものでとへにゃへにゃで形にならず、失敗の山でした。

羊毛・羊毛フェルトに対して感じていることは?

「奥深さ」を一番に感じています。日本羊毛フェルト協会の作家養成コースで羊の歴史や羊毛の繊維の特性を学び始めて以来、何千年にもわたって人が活用してきた背景や共存の道を選んだ羊との関係性に魅力を感じています。

それとともに、幅広い人に受け入れてもらえる加工性や優しい質感などを持ち合わせているところに、身近な存在感を味わえることがすごいなと思うところです。

初めてつくったものはなんですか?

初めて作ったものは、たぶんランプのシェードを作ろうとしたものだと思います。地球儀みたいなボール状にしたくて、青色のメリノを調理用具のボールに貼り付けてフェルト化を試み…へにゃへにゃの物体ができあがった記憶があります笑。そこから始まったのではないかと思います。

今どんなものに興味があるか?

今は、「より羊毛照明であるもの」というテーマに興味をもっています。照明の躯体をデザインして世界観を表現することも楽しいのですが、より羊毛でできる灯りの光を追い求めたい・気づきたいという気持ちが強まっています。

とくにこれまであまりうまく使えてこなかった国産の羊毛を使って作れたらと思っています。

作品にはじぶんのどんな感性・特徴が含まれていると思うか?

根源と循環という感性は、いつもどこかに入っているのではないかと思います。生き物として、細胞粒子として、地球宇宙にある存在として、その根源と循環に気づいて表してみたいという気持ちはよく感じています。

そんなところから、この灯りを眺める人がじぶんと向き合い、楽に生きるための自分に気づく場を灯りと共に用意できたらと思っています。

日本羊毛フェルト協会と自分と聞かれたら?

2019年に、作家活動を始めるとほぼ同時期に関わりを持ち始めました。照明をつくるための素材を羊毛に定め独学でやっていましたが、基礎の必要性を感じて見つけたのがこの協会でした。

それ以来、勉強会にイベント出展や同じ興味でつながる仲間のみなさんとの交流など、暇することなく活動の機会と学びをいただいてきています。いろんな意味を持ち得ますが、人生のなかのひとつの基地のような場所ではないかとも思っています。

ここまでご拝読ありがとうございました。インタビューしている内容をあらためて自らに問うてみると、いろんなことを思い出したり言葉が湧いたりして、一人楽しみました笑。

まだまだ語り尽くせないこともありますので、ぜひお会いできる際にお話できればと思いますので!どこかで交流できる日を楽しみにしています。その際はよろしくお願いします*

「Ovis Lamp」

天然羊毛100%でできた全て一点物の羊毛照明。

羊毛シェードの中から光を灯し

柔らかな明かりを出しています。

製作過程で自然に起こる厚みの動きが

各々の陰影を織り成します。

まるで生まれる命にそれぞれの個性があるかのように。

ひとつひとつ違う。でもそれも美しく、静かに灯ります。

Website : https://www.ovislamp.jp

Instagram : @ovislamp

埼玉県入間市在住


羊毛フェルトってなぜこうなるんだろう?

もっと知りたい、やってみたい!

ーーーーー認定作家 Little Wool / Yokoインタビューーーーーー

2023/11月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lamp の嶋浦です。

11 月に入り、寒暖差が大きくなりました。朝晩の冷え込みや日陰の風当たりでは、冬の装 いがほしくなります。いよいよぬくぬくシーズンの到来ですね!みなさまは今年はどんな ふうにこの季節を過ごしたいですか?

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、作家インタビュー第 5 弾。ご紹介しますのは、当協会 の認定講師である Little Wool の Yoko さんです!ハンドメイドフェルトの質感に定評のあ る日野さんですが、いったいどんな想いや経験を通して今の作家活動にいたっているので しょうか。それではどうぞご覧ください!

Yoko さんの羊毛フェルトとの出逢い。それは「羊毛フェルトで愛犬をつくろう」という講座からでした。愛犬家である Yoko さんらしく、「羊毛は知らないけど、うちの子が作れるなら行ってみようかな」という理由から足を運んだそうです。 この時はニードルフェルトの講座だったので、作業がとても細かく、「これは奥が深いぞ...」 と少し大変さを感じたようでした。そんな経験をしながらも羊毛について触れていくうち に、たまたま代表である佐々木伸子の書籍を見つけて、縫わないでも作れる「ハンドメイド フェルト(水フェルトとも呼ばれる)」の手法を知ったのでした。

当時の佐々木の講座も今と同じく、「基礎」を大事にする講座づくりをしていました。「○○ を作りましょう」の講座はたくさんあったが、「なぜこうなるのか」という基礎から教えてくれる講座は中々見つからなかったそうです。そして基礎を教わると、なぜこうなるかがど んどんわかってきて、もっと知りたくなる。平面から立体へとか、組み合わせるとか色々やってみたくなる。そんなふうにまずはハンドメイドフェルトのおもしろさに楽しさを感じ ていくのでした。

そういった出逢いを経た Yoko さんが感じている羊毛フェルトの魅力とは、「完成を自分で 決められること」とおっしゃいました。それは他の手芸にはあまりないのではないかと感じ たところで、丸かバツかをはっきりしたいタイプにとっては、自分で終わりを決められて、 納得するまで追求できる面白みを感じられるものでした。

今気になっているものをお聞きすると、それはフェルトの帽子だと話されました。これまで も制作してきたのだけど、羊毛フェルトの帽子は薄く軽くてもしっかり作ることができる ので、とても負担が少なくかぶれることに改めて魅力を感じているとのことです。そんな丈夫さに仕立てるために、羊毛の置き方を考えてみたり、別の素材と組み合わせてみたりと、 工夫のしがいがあるところにも楽しさを感じられているようです。

様々な出逢いや経験を経た Yoko さんがつくる作品についての特徴を聞いてみたところ、ず っとハンドメイドフェルトをやり始めてから「使えるもの・自分が使いたいと思えるものづ くり」を意識して制作を行っているとのことでした。使いたいと思えるもの。それはフェルト表面の仕上がりの綺麗さが重要で、表面の波うちやポコポコしてしまっていることのない、スッとなる滑らかな仕上がりに、美的感覚が応じるようです。 ここの美的感覚に、先ほど話された「納得できるところまで追求できる素材」という側面が マッチしているのでしょう。 自分が使いたいと思えるものを作り切る作品作り。長く使えるようにと洗濯性や耐久性、パ ーツ選びにも気を配ったりしています。ここまでの想いを込めるからこそ、「気に入って買ってくれた人には、メンテナンスをしながらやっぱり長く大事に使ってほしいな」という Yoko さんの言葉がとても印象的でした。

今後取り組みたいことの 1 つに、縫い物があるといいます。これまではあまり手をつけず、 縫わなくてもできるハンドメイドフェルトっていい!と言っていたのですが、この度克服 を目指してミシンを購入するに至ったとのことでした。それでも実際に手をつけてみると、 難しいけど楽しいと感じる自分に気づいたと、新たな発見があったようです。 羊毛フェルトを基軸に、ファスナーなどミシンを使うからこそ綺麗に仕上がるやり方を織 り交ぜながら、さらなるクオリティーアップを図っていきたいとお話されていました。

そんな Yoko さんにとって協会とは、実家のような場所だといいます。どっか遊びにいっても帰ってくるところ。そんな実家にはいろんなものを作っている損得無しの仲間もいるし、 定期的な勉強会が行われたりする関りのなかに身を置けるので、協会を起点にいろんなことに手を伸ばせるとのことでした。 全然知らない人の作品を見ることと比べると、名前や性格や生活状況などを見知った人が、 そんな暮らしのなかでいろんな作品作りをしている姿に刺激を受けるというお話は、とても学びがありました。

初めに基礎講座にいって、作家にも講師にも全然なるとは思わなかった羊毛フェルトの世 界ですが、「なぜこうなるんだろう?もっと知りたい、やってみたい!」という気持ちでこ こまで来たのだといいます。 羊毛とフェルトというアイデアの尽きない素材に関わることを、今後も楽しんでいきたい と言葉にされていました。

ぜひいろんな方が、Yoko さんの作品や活動に触れられる機会に巡り合いますことを願って おります。

羊毛フェルトを始めるきっかけとなった愛犬リトルの名前を入れたブランド名にしました。

実用的に使える物や身につけられる物作り、素材としての羊毛の魅力をお伝え出来きるような作品作りを目指しています。

趣味として始めた羊毛フェルトで作家になるなんて思いもしませんでした。

とても奥深い羊さんの世界を少しでもお届けできたら良いなと思っています。

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終わりが見えない、ここが完成だってわかんなくなる手芸

ーーーーー認定作家 Moffs インタビューーーーーー

2023/10月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lamp の嶋浦です。

10月に入り、ようやく秋めいた空気が感じられてきましたね。朝晩の空気、赤とんぼの群れ、夜の鈴虫。今年も季節のものたちがお目見えしてきていますが、みなさんのお住まいで はどんな秋が現れてきていますでしょうか。

さて、今月の認定作家インタビューは、Moffsの瀬戸本菜穂さんです。瀬戸本さんは擬人化人形を多く手掛けられており、お客様お一人お一人の気持ちを汲みながら、丁寧に寄り添って制作をされていらっしゃいます。 どんな想いや歴史から生まれてきたものたちなのかなど、今回も作家さんの普段は聞くことのない世界を聞かせていただきました。どうぞみなさまご拝読くださいませ。

瀬戸本さんと羊毛フェルトとの出逢いは、高校生のときでした。元々小さなものを作るのが好きだったという瀬戸本さん。羊毛フェルトの存在は知ってはいたが...「これは手を出したら、一生時間を費やすことになるぞ...」と感じて、あえて手をつけずに過ごしていたそうです。 そんなある日、お母さまが羊毛フェルト人形のキット「リサとガスパール」を買ってきて、作ってみてと言われて手にしたのをきっかけに、案の定熱を帯びながら熱中していったの でした。(この時はリサとガスパールを作らず、猫人形の制作になったそう) ここからの羊毛フェルトライフのスタートがとても瀬戸本さんらしいと感じました。それは、ここから半年間、完璧な球体フェルトづくりだけに熱中したのだそうです。ただひたすらに球体づくりに集中。

「終わりが見えない、ここが完成だってわかんなくなる手芸」羊毛フェルト人形をそう表現される言葉からも、瀬戸本さんの職人気質を強く感じさせます。

そんな瀬戸本さんがいま現在感じている羊毛フェルトとは。それは「作家制作だけでなく、子どもの成育に関わる活動ができる手芸なんだ」ということです。学校外の活動に関わる中で、子どもたちと羊毛フェルトを使って過ごす機会がある瀬戸本さん。そこでは、子どもたちの自由な発想や会話に促され、本人が望む形が出来上がっていけるように制作物や手法を工夫して場をつくられています。その中で子どもたちは、ふだんはあまり見えない集中力 の発見が見れたり、家に居所ができたりと、ただ遊ぶだけではない、羊毛フェルトの多様に 繋がるアプローチとしての側面を実感されています。

関わる子どもたちに、「色んな生き方があるよ。がんばれば世間一般の働き方じゃなくても、自分がやりたいようにやって生きていくことも可能だから。学校はしんどいこともあるけれど、大人になったら選べるよ」という想いも伝えたいといいます。そのような気持ちも胸にしながら行われている活動の中で、子どもたちの変化や発見もあり、スクールソーシャルワーカーや心理士の方からも依頼があるような取り組みにもなっ ています。

羊毛フェルトの懐の深さや可能性の多さを教えてくれるエピソードでした。

話は変わり、瀬戸本さんが制作されている擬人化人形について伺いました。 動物本体部分はさることながら、人形が装備したり手にしたりする道具なども手作りしていきます。そこまで作り込むのは、「家族であるペットとの思い出や、過ごした中で感じた 性格を想像したり、ご依頼の方と思い出話を交えて対話をしたりしながら、その子の物語をまたつくっていく」ことを大切にしているからでした。お客様のなかには、ペットロスを感じて依頼される方も多くいらっしゃるようです。そのような気持ちを抱えている方とともに、想い出を振り返り、性格や好きなものを反映させて、人形に身につけさせて、人形も自分自身も立ち上がり、また一緒に時間を築いていく ...。普通に思い出すと悲しいことでも、「こんなものを持たせてあげたい!これを持ってれ ば楽しく過ごしてくれそう!」というやりとりもあり、まるで心を癒すセラピーを受けているようなかんじにもなるのではないか...という気さえしてきます。それらの発現力のひとつになっているのが、昔から好きだった本や絵本、シルバニアファミリーで想像する物語づくりの体験だということ。小さいころからの経験が、現在にも存分に生きている様子がうかがえました。

そんな探究心旺盛な瀬戸本さんのこれからの磨きポイントは、人形の表情と小物づくりの 幅を広げて、より豊かな擬人化人形を制作してきたいということでした! 「今後もがんばります」と話す瀬戸本さん。ますます魅力が高まっていきそうな作品づくり がとても楽しみですね!

最後に瀬戸本さんにとって日本羊毛フェルト協会とは。すごく多様性が認められるグループだということ。ここなら受け入れてもらえるんじゃな いか、いろんな人や作品と交流ができるのではないかという気持ちで入ったが、実際にそう だったとのことです。やりたいことをやっていて許される場所。とても有難いことだと話されていました。

(写真)

瀬戸本さんが YAMAHA発動機(株)さまから依頼されて制作した羊毛フェルト製のバイクパーツ。質感が工芸品のよう。今後こういうものもチャレンジしてみたいとのことです。

羊毛フェルトで、擬人化された動物の人形を作っています。物語の前後まで想像できるような、会話を想像できるような人形作りを心がけています。

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2018年よりYAMAHA発動機手芸コンテンツ「羊毛フェルト」担当してます。

YAMAHA発動機手芸コンテンツ「羊毛フェルト


自分がつくり出したもので生計立ててみたい

ーーーーー認定作家 koyun Hijikoインタビューーーーーー

2023/9月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lamp の嶋浦顕嶺です。

9 月に入り、今年ものこり 1/3 となりました。暑さに流されてしまう日も多かったかもしれ ませんが、どんな日々を送ってこられましたでしょうか。秋の気配を感じながら、また今月も向き合っていければと感じています。

さて今月の作家インタビューは、福岡を中心に活動されている koyun の Hijiko さんです! Hijiko さんは 2022 年に羊毛フェルト認定作家コースを卒業され、作家として日々活動され ています。いつも熱い想いを胸にいだきながら作品に向き合う Hijiko さんは、どんな人物 なのか!その内なる一面をご紹介できればと思います。それではご覧ください。

Hijiko さんの羊毛・羊毛フェルトとの出逢いは、百貨店勤めだったときに担当していたフロアでした。そこは作家さんの作品を多く並べるフロアで、ひとつの転機にきっかけになった のが、芸能人の光浦さんが羊毛のブローチの本の出版に際してゲストとして来訪されたこと。作品を見たりお話を聞いたりして、これまでなんとなく目に入る程度だったフェルトに 対して興味が生まれたのでした。

羊毛フェルトに出逢う前は、長く編み物を習っていたという Hijiko さん。ゆくゆくは講師 になろうと考えながら日々練習していたのですが、講座を修了したのちに自分の性格との相性に違和感を覚えた時期がありました。そこから別の道を探すにあたり、編み物で扱って いた毛糸から、「毛糸→素材は羊毛→羊毛ってなんだろう?」という想いがつながり、「やる なら基礎からしっかり学んで身につけていきたい」気持ちが重なったことで、ヴォーグ学園 の佐々木の羊毛フェルト講座にいきついたのでした。

「自分がつくり出したもので生計立ててみたい」

じつはこの想いが、ずっとこころの根底にあったといいます。人生の様々な状況によって埋 もれながら過ごしてきたこれまででしたが、いろんな出逢いが折り重なって、今ようやく向き合えるタイミングが来て活動できているとのことです。

そんな Hijiko さんがいま羊毛に対して感じていることは、「このふわふわしているもので、 私のあたまのなかにあるものを体現できたときが嬉しい!」ということでした。 大変なこともたくさんあるけれど、想いを形にしてくれて、ウキウキワクワク楽しい、達成感や癒しをもらえるところに魅力を感じ、幸せを与えてくれるものなのだということです。

Hijiko さんが思う幸せ。それを周りにも分けたり還元したい。分けた人が喜ぶ姿が見れたと き、自分が感じられた嬉しい・しあわせが伝わって、ちょっとずつでも広がっていっている という実感。作品をつくり人に渡ることで、眺めた人の心にあたたかなものが湧いてくれた ら。そんな小さな連鎖が繋がっていって、地域の、日本の、世界の幸せが広がってほしいと、 胸の内を明かしてくれました。お話をお聞きしているなかで、作品 1 つに込められた気持 ちが、とてもやさしくかつ熱く、ぼくの心に届いてきたことを受け取っています。

その想いが体現されているひとつが、Hijiko さんが展開している「Happy Zoo シリーズ」。 ハートマークが特徴の動物人形のシリーズです。 販売で得られたものの一部を、寄付や支援活動に還元していくことを織り込んだ作品作り です。ナチュラルカラー羊毛の作品が原点のように感じていて、最近は小さな動物をストラ ップ状にして制作されています。

自分が得た知識や経験や収入・ワクワクや幸せを還元して、子ども支援や社会への寄付など 必要な人や存在などにまわせて循環させていける、そんな輪に入っていきたい。自分一人で は難しくても、いまはまだ小さい規模でも、できることを活かす。最近はとくにそんな気持 ちをもって作品作りをしていきたいと話されていました。

そんな Hijiko さんにとって「日本羊毛フェルト協会」とは、「もうひとつの世界」。そこに いる仲間や家族と、自分をさらけ出しても拾ってくれたり、助け合ったり成長し合ったりし て過ごせる場所だといいます。それぞれのメンバーの特徴を感じながら、Hijiko ワールドを 創っていける惑星。数ある世界のなかの、いま居心地がいいところになっているようです。

これまで色々お伺いしてきたこのインタビューですが、最後に Hijiko さんからのメッセー ジをご紹介して終わりにしたいと思います。

“今からの時代、好きなこと・やりたいことを自由にやっていい時代なんだと思います。しがらみ、抑えられていたことを我慢しなくていい、やりたいことやっていい、前に押し出していっていい。もし羊毛の世界に興味がある人がいたら、いつでもウェルカム。羊毛でやり たいことをやれる、手助けがある環境がこの協会にはあるように感じています。 いつからでも遅くない。みんなで Happy になりましょう!

この羊毛の世界に連れてきてくれてありがとう。素敵な仲間を与えてくれてありがとう。 この地球に Happy が溢れますように”

koyun Hijiko

羊毛と暮らす365日

羊毛で作品づくりをしています。

2022年からは作品販売、ワークショップをしながら羊毛の素晴らしさをお伝えしていきます。

出店情報はインスタで。

https://www.instagram.com/koyun_hijiko/


羊毛の色で遊ぶ

ーーーーー認定講師・作家 Me Time かしみのかえる かしみインタビューーーーーー

2023/8月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、OvisLamp の嶋浦顕嶺です。

梅雨もいつの間にか明け、夏らしい日々が続いていますね。暑さにうだる時間も多くなりま すが、朝晩の涼風や冷たいアイス、ふと聴こえる風鈴などなど、この時期だからこその感覚 に耳を傾けられたらと思っているこの頃です。

何に意識を向けるのかが、大切なことなんだ なと感じています。

さて今月のコラムは、日本羊毛フェルト協会所属作家さんのインタビュー第 2 弾です!ご紹介しますのは、認定講師でもある樫村道子さんこと、かしみさんです。

かしみさんは今年で作家活動10 周年。始まりの 1 年目から今にいたるまで、どんな経験体感があったので しょうか。そのトピックなど語っていただきました。

かしみさんの羊毛フェルトとの出逢いは、手芸屋さんでした。娘さんと「何か作りたいね」 といってふらふらしていたときに見つけたニードルフェルトキット。たいそうな道具もいらず、簡単そうだし手軽に作れそうなところが良いきっかけになったそうです。 しかし実際やってみると、紹介動画などを見ても中々うまく仕上げられず、一度は辞めてし まったとのこと。そんなきっかけと挫折を始めに体験したことも、その後の初心者の方も参 加するワークショップ活動にも生かされているのではないでしょうか。

その後どこか習えるところを探していたところ、「自由につくれる」と案内されていた当協会と出逢い、習い始めたかしみさん。講座内でハンドメイドフェルトを初めて経験したり、 コンテストに出してみたりしながら、作品づくりの幅を広げていきました。

「つくることは昔から好き」。そうおっしゃるかしみさん。子どものころは、親御さんはリカちゃんハウスのような出来合いのものはあまり買わなかったようで、「ブロックとか積み木で作りなさい」と言われていたようです。そうやって自分でつくることを勧められたこと もあり、自分で創造していくことも楽しみながら遊んでいたとのことでした。 そんなこれまでの「つくるライフ」の中で特に思い出されるのは人形づくり。中学生の時に は紙粘土で作ったり、娘さんが小さいときに布人形を作ったりされていたようです。人形作りは今にも続き、かしみさんの特徴でもあるカエル人形やサウナトントゥといった作品に も繋がっていっています。

話は展開し、羊毛という素材についての印象を伺いました。 かしみさんにとっての羊毛の印象は「やさしい癒し・カラフルな色が使えるのが好き」とい うこと。ナチュラルカラーだけでなく、くっきりした化学染め、また天然染料の植物染めなど、様々な色で遊ぶことをとても楽しんでおられました。「色で遊ぶ」。それはかしみさんの 感覚のなかの、大事なワクワクポイントのようです。いかがでしょう、みなさんがウェブシ ョップや展示会でご覧になる作品たちからも、その感性が感じられることと思います。

そんな作品作りの中で、毎年ひとつはチャレンジ作品を意識して取り組んでいるとのこと でした。これまで発表された浮世絵カエルや仏像カエル、刺繍入りサウナハットなど、自身 の興味や暮らしの発見などを取り込みながら、独自の作品を生み出して楽しんでいるよう です。そんな楽しさに惹かれ、作品を手にとられる方も多いのではないでしょうか。

最後に伺った、かしみさんにとっての日本羊毛フェルト協会とは。 それは、「一人だとできない体験ができるところ」であり、「頼れるよりどころ」であるとの ことでした。 自分だけでは行かないような地方でのイベントに参加できることだったり、迷いやトラブ ルを分かち合える仲間がいることだったり。ヒト・モノ・コトと繋がっていける、そんな場 所だと感じておられました。

「色で遊ぶ」「見て楽しい」「楽しいは生きる活力」。 自身のなかにある感性を大切にしながらものづくりを楽しんでいるかしみさんの、今後の 生まれてくる作品たちとご活動を、どうぞお楽しみ!

「Me-time」・me-time frogs

カエルをモチーフとした楽しい作品たち・me-time smile

使い易いのはもちろん、使うたび思わずニッコリしてしまうような大人可愛い雑貨たち

ブログ : https://s.ameblo.jp/mewoolametime

Instagram : kashiminokaeru

twitter : @kashymie4

FB : https://www.facebook.com/korodeko

羊毛は知れば知るほど得体のしれないやつ!

ーーーーー認定講師・作家 POTA 畑中貴子インタビューーーーーー

2023/7月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

まだまだ梅雨空を感じる地域も多いでしょうか。先日、カマキリの卵が高めの位置についていたという話を聞きました。カマキリの卵の位置でその年の雨量がわかるという話もありますが、今年は雨が多くなるのかもしれませんね。時の晴れ間に感謝しつつ、雨の恵みを感じて生きたいところです。

さて今月からの羊をめぐる旅コラムは、当協会の作家さんのインタビューを織り交ぜてお届けしていきます。

作品に関しては各SNSや展示会でご覧になることもあるかと思いますが、作家個人にフォーカスしたお話を聞くことはあまりないのではないでしょうか。

魅力多き作家さんの内側を、みなさんにもご紹介させていただきます!

まずお一人目は、現在当協会の認定講師である福岡県の畑中貴子さんです!

畑中さんの羊毛との出逢いは、偶然のものでした。たまたま訪れたレンタルスペースで目にした日本羊毛フェルト協会の第一期展示会の案内DMを目にしたことから、当協会のワークショップのご案内も見つけ、それまで羊毛も羊毛フェルトも触ったことのなかった畑中さんの羊毛Lifeが始まりました。

初めて作ったものは、なんとフェルトのルームシューズ。いきなりの大物感がありますが、タイヘンさを知らずに、どんなものかなーって気持ちで飛び込めたからこそ完成できたかも!なんてお話も。工程を知ってしまっていたら、足が遠のいてしまったかもしれない…なんて采配もありながら、丸1日かけて作り上げた思い出があるようでした。

そのような出逢いを経て、畑中さんが感じている「羊毛」の魅力とは、なにか。それは「知れば知るほど得体のしれないやつ!」ということでした。特にウェットフェルトをやっていると、縮み方や姿の違いなどがよく実感できることから、まだまだ知らない子・得体のしれない子がいるのだろうなというワクワク感を感じているようです。

また「羊毛フェルト」の魅力は、セオリーがありそうで無くて、自由に作れるところが魅力。厳密な分量にいつも縛られることはなく、失敗も発見も大きく受け止めてくれるような無限大の可能性や応用力があることがとても合っているとのこと。みなさんはいかがですか?同じように思われるところもあるのではないでしょうか。

そのようにウェットフェルトを多く制作してきた畑中さんですが、最近は違う手法にも親しみを感じ始めたようです。とくに熱を入れられているのが羊毛の紡ぎ。

紡ぎ準備のモクモクとゴミ取りをする時間も楽しみながら、「この紡いだものを、どう羊毛フェルトに活かせるだろう」と考えているとお聞きしました。

紡ぐと聞くと「編む・織る」を想像しますが、これを「羊毛フェルトに活かす」という感性が畑中さんのとても魅力的な部分であり、今後どんなものが生まれてくるのだろうという楽しさを感じさせていただきました。

そんなチャレンジも込めながら活動されている畑中さんが、作品作りで大事にされている点のひとつに、「使う用途に合わせた丁寧な実用性」があります。

日常的に使うものなら洗濯性や耐久性を大事にし、自分で実際にガシガシ使ってみて、型紙や仕様をどんどん改良していく畑中さん。かばんやサウナハットなどの制作品が展示会で並ぶと、その丁寧さと堅牢さがとても際立っています。

そんな畑中さんにとって日本羊毛フェルト協会とは、イコール佐々木先生。そして協会に入っていることによって人との交わりができたこと。

好きなものが同じ人と過ごせる機会や時間が、とても貴重ですねとおっしゃっていました。子どものときもしかり、大人になってからも同じ興味で繋がれることは、暮らしや人生に彩りを加えてくれるのではないでしょうか。

《ブランド》

「POTA」

「POTA(ポタ)」はフランス語の「potager(ポタジェ)」から名付けました。

potagerとは野菜や果物を混植したお庭のことです。

色とりどりのお花が咲き、野菜が実り、様々な生き物がやってきます。

そんな風景を羊毛フェルトで表現したいと思っています。

web 

Instagram 

・・・

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

今月は日本羊毛フェルト協会認定講師の畑中貴子さんのインタビューをお届けしました。いかがでしたか。

羊毛やフェルトの魅力、偶然の始まりの出逢い、そして畑中さんの独自の感性に触れ、改めてこの世界の豊かさを実感しました。

畑中さんお時間いただきましてありがとうございます。この場をお借りして重ねてお礼申し上げます。

それでは次回もどうぞお楽しみに!

さっちゃんの毛刈り

2023年6月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

南の方から梅雨の便りが届くころ、雨を楽しむ季節となってきましたね。みなさまの地域のアジサイの咲き具合はいかがでしょうか。
今月のコラムはそんな雨の季節の前に行われる、毎年恒例の羊の毛刈りに参加したお話です。
今年で3年目になりますが、知人の自宅で飼っている羊のさっちゃん(マンクスロフタン×フライスランド)の毛刈りに、今年も参加させていただきました。
(猫と同じように、羊もおでこを撫でられると気持ちいいのでしょうか。撫でてと言わんばかりに寄ってきます。)
この羊のさっちゃん、元々飼っていたところで余剰となっており、もうお肉にするしかないかなぁというところを知人が引き取ってきた経緯の持ち主で、今年で7~8歳になるようです。羊の寿命が15,16年くらいといわれているので、人間でいえば40~50代くらいでしょうか。どことなく、白い毛も増えてきているような気もします。
いつまでも続いていくようなこの子の毛刈りがもう折り返しに近づいてきたのかと思うと、どことなく寂しさと有難さが湧いてきます。ヒトは羊の毛の恵みをいただきながら、羊は暑さなどから身を守ってもらいながら、生活のやりとりをさせていただいています。
さっちゃんは角があって暴れるため、横倒しにしてがっつり頭を押さえます。それでも虎視眈々と脱走のタイミングを狙い、時折急に脚をばたつかせます。蹄のキックは強力ですので、毛刈りの立ち位置も気を付けて行います。痛いですので…。
ここではバリカンではなく、ざくざくとハサミで刈っていくので、地肌の感触や毛のざくざくっとした音を聞きながら進めていきます。肌を一緒に切ってしまわないように、慎重かつスピーディーに。暴れ出したら即避難!
こうして片面1時間くらいかけながら、今年も無事さっちゃんの毛が収穫できました。
この毛刈りのイベント。知人家のみなさんの個性もあり、毎年人が集まってきます。
毛刈りするんだけど来ませんか?というお声がけに、友達の友達まで訪ねてきます。一匹の羊の毛を刈るという行為が、人の出逢いを繋いでいく。生き物に触って、毛をなでて、体感して、終わったらみんなでごはんを囲む。人と人の交流を、この一匹の羊のさっちゃんが生んでくれる。
みんなでさっちゃんに触れて、眺めている姿をみると、日常では感じにくくなっている何かを想わずにはいられませんでした。ぬくもりだったり、時間だったり、未来だったり。
今年の毛ではなにをつくろうか。そんな話ができることに喜びを感じながら、今年の毛刈りも無事終わっていきました。

羊毛フェルト作家養成コース

2023年5月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

ゴールデウィークも過ぎ、各地でのイベントも活発になっていますね!お好みの催しに足を運んだり、お気に入りの作品に出逢ったりされているでしょうか。
ご自身が出展され、表現を広げられている方もいらっしゃることでしょう。今あるものを感じて味わって、楽しんでいきたいですね!
さて今月のコラムは、6月より開講する「日本羊毛フェルト協会 作家養成コース」を、わたくし嶋浦の視点から紹介してまいりたいと思います*
年に一回開講しているこの「羊毛フェルト作家養成コース」。
羊について、羊毛について、羊毛フェルトという手法について学び、地に足つけて活動していけるよう仲間と練習していく場になります。
ネットや動画で自己流でできることも増えました。道具も進化し、ある程度のことは以前より容易にできるようになっています。多くの人が簡単に楽しみに触れられる時代。豊かさのチャンスの多さを感じます。
一方で、そういった情報を入手すると同時に、さまざまな比較にさらされてしまうこともあるでしょう。
自分はこんなもの。なんとなくできるけど、満たされた気持ちになれない。
速いスピードの流れの中、周りばかりに目をとられ、足元の草花の姿に気付けないように。
この養成コースで大切にしていることの1つに、「基礎習得の力」があるように感じています。
基礎は知識であり、経験であり、反復です。そしてそれは個性と実現性と自信につながっていきます。
その練習を、1人ではなく、仲間や先立つメンバーと行っていけることが、この作家養成コースの特徴の1つです。
そしてこのコースを修了した後も、羊や羊毛という共通点で繋がりながら、各々の作品作りを展開していったり、協会としての活動をともにしていったり、コミュニティーとしての場も続いていくことができます。
技術を習得して終わりじゃない。1つ作品ができたから終わりじゃない。
発想と共有、成長と自信を長く楽しんでいく。
そんな作家として成長していけるよう、毎年講座が開かれています。
ChatGPTをはじめとしたAI利用がどんどんあたりまえになっていくでしょう。いろんな分野で自動生成も広がっていくと思われます。
手仕事の分野も、以前からの機械化・マニュアル化が今なお進んでいますが、わたしたちヒトが持ち合わせているこの体感覚を手放しすぎず、むしろあらためてより発達させていく意識が、必要になってくるのではでしょうか。
羊という生き物とヒトの共存。羊毛という恵みの活かし方。それぞれのみなさんに宿っている感性の表現。
「できることが増える」という、純粋な喜び。
ぜひここで基礎を学び、そのあとに続き広がる世界を、楽しんでいってみませんか。
みなさんとともに交流できることを、メンバーの1人として、心よりお待ちしています。

お申し込み・詳細はこちら↓

自分を知る協会

2023/4月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、OvisLampの嶋浦顕嶺です。

4月に入り新年度。桜前線もどんどん上っていき、新たな日々が始まることの多い季節になりましたね。

みなさまの所の桜はどんな姿でしょうか。満開ですか?それとも新芽が見えてきているでしょうか。

どうぞ今このときの姿を、お楽しみください。

今月のコラムは新年度ということもあり、あらためて当協会「日本羊毛フェルト協会」をご紹介してまいりたいと思います。

日本羊毛フェルト協会(Japan Wool Felt Association)は、2011年4月11日に設立しました。今年で13年目の年になります。

「羊毛フェルト作家、講師の養成、そして羊毛フェルトを作る喜びと楽しさ優しさを広める活動」を行っており、その基盤となるのが「創作活動の基本となる技術や知識、人間性を高めること」と考えております。

ふむふむなるほど!と読めていく言葉たちですが、では「創作活動の基本となる技術や知識・人間性」とはいったいなんでしょうか?

基本となる技術と知識。それは羊毛のこと、羊毛が形成される仕組みといった素材のことや、どんな羊毛がどのように縮絨するのか、どのようにニードルで刺したらどんな変化が起こっていくのかという、シンプルなところの理解。さらに言えば、自分の手で形作っていけるという体験と体感を得ていくこと。

そのような基本をカリキュラムに組み込んで、オンラインクラスや作養成クラスを通して学びを進めていきます。一人ではなく、同じ興味をもった仲間とともに。

そして「創作活動の基本となる人間性」とは。一口には言い切れませんが、例えば、じぶんを知ること。じぶんの良いなと感じるものを知ること。自分が表現することを許すこと。

そんな自己理解と解放を作品づくりを通して進めながら、作家として活動するための目標を自ら作って向かうこと。やってみるということ。

作り切ってみるということ。ものに対しても人に対しても丁寧に向き合っていくこと。

そのようなことを共有し、成長し合える場であることを

大切にしてまいりたいと考えております。

人生、常に上り調子の時期ばかりではないでしょう。ときにつまづき、ときに止まり、ときに後戻りしている感覚になることもあるでしょう。

そんなときもこのやわらかな羊と羊毛を通じ、安心して過ごせる機会と場として、ゆるやかにでも真剣に、楽しくものづくりをしていきたいと思っています。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

原毛の美しさ

2023/3月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。
2023年もあっという間に3月を迎えました。みなさまの周りも三寒四温を過ぎながら、春の様子が色濃くなってきているでしょうか。季節の変わり目、どうぞご自愛くださいね。
さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、「原毛の美しさ」というタイトルでお届けします。
原毛。
フリースと呼ばれる状態です。ここでは主に加工されていない羊の毛を指しますが、みなさんは羊の原毛には触れたことがありますでしょうか。
羊の毛は毎年春から初夏にかけて、年に一回毛刈り(シェアリング)をします。
はさみやバリカンで刈られた毛は、さまざまな工程を経て私たちの元へ届いてきます。
毛に付着した草や糞などの夾雑物の除去(スカーティング)、汚れや脂(ラノリン)を落とす洗毛、洗った毛の乾燥、毛の流れを整えるカード掛け。
ここまでくるとよくお店でみるような、ふわふわ綺麗な羊毛の状態になります。大型の機械で行う工場もあれば、手作業で行うところもあります。
そんな工程を経てわたしたちの手元に届く羊毛ですが、今回お伝えしたいのは「乾燥」時点での羊毛のお話です。
実はここの段階まででも、羊毛の状態を調整できることがあります。それは、「どの程度洗うのか、どの程度脂(ラノリン)を残すのか」というところです。
そのポイントは、「クリンプの残し方、脂による艶の残し方」です。
羊毛を洗えば洗うほどフェルト化が進みやすくなり、くるくるしたクリンプもほどけていきます。またしっとり感のある艶も、脂とともに落ちていく部分があります。
ここの残し具合・活かし方に、「原毛の美しさが浮かび上がってくる」と、羊毛を扱う中で感じています。
これには、「フェルター(羊毛をフェルト化させて作品作りをする人)であること」という点も大きく関わってくるでしょう。
織りや編みの場合、原毛は紡いで糸にしていきますので、一般的に原毛の姿が残りづらくなります。
しかしフェルトの場合は、ハンドメイドフェルトにしろニードルフェルトにしろ、原毛のまま活用していくことができるので、その姿を残すことが可能となってきます。
羊一種一種の毛の特徴。くるくるの毛もあれば、ウェーブが綺麗な種類もいます。また同じ種類でも育った環境によってその毛質は変わってきます。
そんな個性たちの美しさをダイレクトに感じられるのが原毛であり、フェルティングという手法の良さでもあるのです。
汚れや脂まみれの原毛を、洗い乾かしたときに見せてくれるそれぞれの姿。
愛らしさ、曲線美、やわらかさ、驚き。
そんな原毛の美しさを、一度体験してみてはいかがでしょうか。

羊が見ている景色

2023/2月


こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

2月に入り寒さが増してきましたね。ウール素材のあたたかさをいっぱいに感じている毎日です。

肌にチクチクして痒くなるかなと思い、肌着の上から着ていたウールセーターを肌着を着ずに着て過ごしています。これが今フィットしていて、この温かさと柔らかさにはまり、もはや連日着るようになってしまいました。体感体験、日々学びです。

さて、今月お届けするコラムは、「羊が見ている景色」についてのお話です。

この場でも何度か書いておりますが、羊はアンテロープというカモシカ種を祖先に持ち、約1万年ヒトとのお付き合いがあると言われています。羊たちは世界各地で飼育され、品種改良によってさまざまな気候や文化に合うように変化してきました。

そんな羊たちを想ったとき、ふと「彼らが見ている景色ってどんなものだろう」なんて問いが浮かんできたのです。えぇ、なんとも突然なのですが。

この問いをもった時、わたしのイメージに一番最初に浮かび上がってきたのが草原でした。

そのイメージを追っていくと、次々に場面が巡っていきます。

どこまでも続くような広い草原の緑。そして起伏のある丘に散らばる白や黒の羊たち。

そんな牧歌的な風景。

ときに羊が飼育されている場所は、海沿いの土地だったり島だったりすることもあります。

その場所での海の青。上には抜けるような空の青。

森のような場所もあるでしょう。植物の茶肌。白樺の灰色。木漏れ日。

乾いた岩肌をのぼる羊の蹄。大地の褐色。吹き流れる風。

季節は巡り、彩り溢れる草花の間をあるくこともあれば、真白な雪に足跡をつけることもあるでしょう。その体に、季節のものを纏っていることもあるでしょう。

そういった情景が想起されたとき、いったい羊たちの目にはどう映っているのだろうと想像するのです。

その目で、その毛で、その肌で、全身で浴びるそれらの彩りは、羊たちはどう感じているのだろう。何を受け取っているのだろう。

そんなことを思い描きながら、あらためて手に取ったこの羊毛にむかって、「どんな景色を見てきたの?どんな自然を体感してきたの?何を感じて命を育んだの?」と、問いかけてみたくなるのです。

あなたが手にする羊の毛からは、どんなイメージが浮かびますか?

その羊が見た景色は、どのようなものだったでしょう。

そんなことをイメージしながら向き合うものづくりも、また奥深いものですね。

第三の脳

2023/1月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

年が明けての最初の投稿になります。引き続き様々なことが訪れることと思いますが、

今年もみなさまに幸多き日を過ごされますことをお祈り申し上げます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムは、わたしが今探究を進めたいと感じていることをご紹介したいと思います。

それは「羊毛と皮膚感覚」という領域です。

皮膚感覚。この言葉をきいて、どんなことが思い浮かぶでしょうか。

手触り、肌触り、痛み、重さ、心地よさ。

皮膚に触れるものは、多種多様です。身にまとうものだけではなく、わたしたちは空気や光にも常に触れている生き物です。

そんな皮膚を持ち合わせているわたしたちと、羊毛との関係性や影響について、時間をかけながら探究していきたいと思っています。

傳田光洋さん著「第三の脳」という書籍があります。この本では、科学的根拠・研究実績をもとに、皮膚のさまざまな可能性について論じられています。

その中で、皮膚は「第三の脳」というように表していました。それは、皮膚が人間にとって最大の臓器であること、受精卵から皮膚が構成されるタイミングが脳と同時期であること、外部からの刺激の受け方や神経伝達、その反応に多くの可能性と感受性が秘められていることなどがあります。

そしてそれは、人間のこころにも通じているのではないかと。

わたしはこういった皮膚の機能と、羊毛を触る・触れるということに、まだ明文化しきれていない心身への作用があるのではないかと感じたのです。

例えば羊毛をフェルト化する際、元を辿ると、生きている羊のラノリンを纏った毛を触るところから始まり、洗い・乾燥を経て、ふわふわな羊毛へと変化していきます。その柔らかさ、温かさを感じることでしょう。

さらに縮絨させていく際の手触りや指先の感覚の変化。そこには多くの皮膚感覚への刺激や心地よさが伝わってくることと思います。

そしてこの刺激が、例えば気持ちをやさしくしてくれたり、安心感を感じさせてくれたり、呼吸を深めてくれたり。そんな心身の作用へと繋がっていくとしたら、それは素晴らしい恵みではないでしょうか。

見た目のかわいさ、機能的なあたたかさなどとともに、「皮膚感覚への影響」という視点と意識をもって羊毛と向き合っていくことの可能性。

これまでとは違った人と羊の付き合い方に、想いを巡らせている今日この頃です。

参考書籍:「第三の脳」傳田光洋著 朝日出版社 2007年

毛と温度について

2022年12月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦です。

いよいよ12月に入りましたね。寒さを感じる日も増え、暖房やあったかい飲み物にほっと癒されることも多くなりました。

みなさまは今日、どんなことにぬくもりを感じたでしょうか。ぜひ少し立ち止まって、そのぬくもりをじんわりと感じてみてください。そのぬくもりの奥に、ちょっと触れられるかもしれません。

さて、今日は毛と温度について綴っていきたいと思います。

わたしは毎朝髪の毛の寝ぐせを直すために、洗面シャワーで水をかけてリセットするのですが、いよいよ冷たさからお湯設定に手がのびそうになってきました。(水が冷たいと、その後どことなく頭皮がほかほかするので、それも心地よいのですが)

水が冷たいので、速く髪の毛が濡れ切って寝ぐせをリセットしてほしいのに、なかなか浸透していってくれないことにふと気づきました。

水温があたたかいうちは掛けてさっと浸透していった髪の毛。

同じくらいの時間かけていても、この時期はまだ髪がピンっとはねています。

そのとき思い浮かんだのです。

「あれ、これは羊毛の縮絨の際の水温度と関係があるんじゃないだろうか」と。

人の髪の毛にはキューティクルという部分がありますが、キューティクルは30~60℃の間で少しずつ開いてくると言われています。

つまりそれを下回る冷水だと、キューティクルが開きにくいようです。

キューティクルが開かないと髪の内部に水分が浸透しにくく、固定された組織が緩まずに寝ぐせが直りにくくなりますね。

羊の毛をフェルト化や染色をする際も、温度を与えることによって縮みや絡みをコントロールします。

温度を徐々に上げていってスケールを開かせたり、温度を下げてスケールを閉じさせたり。冷たすぎると縮絨が遅くなることがありますし、反対に熱すぎると毛を傷めてしまうことにつながります。あぁ、人も羊も、似ているところがあるのだなぁとしみじみ実感したところです。

そんなことを思い浮かべていると、冷たい雨に打たれる野生の羊が頭の中に現れました。

あたたかい時期にあたるならまだしも、さむい時期に浴びる雨はさぞかし冷たいだろうなぁって。

でももしこの、冷たい水だとスケールが開きにくくて、水が浸透しづらい機能があったとしたら、それは身体を守るとても重要な機能なんだろうなと感じます。雨に濡れづらくなり、身体を冷やしにくくなることは、熱を持つ生き物にとっては命を維持する大切な要素になります。

すべての性質には意味がある。

そんなことを感じさせてくれた、冬の朝の水でした。

羊毛素材学

2022年11月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

11月に入り、朝晩の冷え込みが一層感じられる季節となりました。その一方で空気は澄み 、秋晴れの気持ちのいい青空もみられるようになり、吸い込む空気とともに清々しさを身 体いっぱいに取り込んでいます。

さて、今月のひつじをめぐる旅コラムは、先日学んだ「羊毛素材学」について綴ってまい

ります。

去る10月1日2日に、横浜で「新・東京スピニングパーティー2022」が開催されました。 日本で唯一のファイバーフェスティバルということもあり、遠方から足を運んだ方もいら したのではないでしょうか。

わたしが属する日本羊毛フェルト協会も1ブース設け、参加させていただきました。お立 ち寄りくださったみなさま、あらためて御礼申し上げます。

その中で催されましたワークショップに、本出ますみさん主催の「新・羊毛素材学」があ

り、こちらで学ばせていただきました。

これまでその都度学んできた羊毛のことですが、

ここであらためて知見を深めようと参加したしだいです。

このワークショップは、実際に本物の羊毛を触ったり長さを測ったりして、この手で体感

しながら進めていくものでした。

頭では知っていても、個々で触ったことがあっても、一同に見て触っていけるということの、わかりやすさと比べ安さはとても新鮮でした。

羊の種類は3000種以上といわれます。

その中の市場に出回る一部のものではありますが、 どんな羊が、どんな背景があって生まれ、どんな性質を持ち合わせているのかを体感する ことは、自然と羊への興味・羊毛の活用を想像させるものでありました。

これはひとえに 、人の飽くなき品種改良の結果であり、賛否はあれど、羊たちはその変化を受け入れてき たということでもあります。

その変化に、世界のどれほどの人が助けられてきたか。 だからこそ人は、世界の多くの宗教でも禁忌とせず、その命をいただいてきているのでし ょう。

羊の毛には、識別しやすいように分け方があります。

ひとつに、羊の体の部位による分け方。首・背筋・腹の毛はゴミや糞や紫外線の痛みがあ

ります。一方で、肩・横腹・後ろ脚はダメージが少なく、毛質が良いものとされています

ふたつに、毛の太さがあります。これは「番手」という目安で表現され、その太さによっ

て適している加工品が変わってきます。細ければ衣類、太ければ絨毯など。

既知の合いやすい番手と製品の組み合わせはありますが、その情報に囚われず組み合わせや加工方法を選ぶことで、その可能性は多種多様になっていくでしょう。

他にも、毛の柔らかさ・弾力・光沢・白髪っぽい毛質といった、質感の違いによる分類が

あります。

こういった特徴の違いは、すべてが数値化されているものではありません。まずは自分の手で触って、その違いを感じること。その重要性を本出さんは伝えられていました。

この柔らかさだったらこの製品がいいか、このクリンプがあったらこんなデザインはどう

か。

この手の感覚から始まる発想の豊かさと自由さを、この講座から感じることができました 。

得てして現代のわたしたちは、インターネットでいち早く情報を知ることができます。

しかし、この「触感」を含んだ体感覚の情報からは、視覚聴覚のみでは現れにくい創造性

が想起されることと思います。

多種多様な毛質から、わたしたちに豊かさを与えてくれる羊たちの毛。

みなさんがこの毛たちに触れるとき、どんな感覚と出逢うことができるのでしょうか。

参考図書:SPIN HOUSE PONTA 「羊の手帖」ワークショップ資料


FEEL FELT ~羊だからできること~

2022/10月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

ようやく暑さも和らぐ日が増え、秋の空気が感じられはじめました。朝晩の涼しさや、鈴 虫の音、食材の変化など、季節の移ろいを味わっています。みなさんはこの秋、なにをし たいでしょうか。

さて、本題に入る前にお知らせです。

日本羊毛フェルト協会は、2022年10月に福岡、11月 に東京で展示会を開催いたします。それぞれの作家が、それぞれの個性で製作する作品展 。

年に一度の展示会となっておりますので、どうぞ足をお運びくださいませ。詳細は「日 本羊毛フェルト協会ホームページ」 ( https://www.woolfelt.jp/ )からご参照ください。

今回の展示会のテーマは「FEEL FELT ~羊だからできること~」と題しております。 この「羊だからできること」に、わたしたちは多様な可能性を感じております。 今日はそのことについて綴っていきたいと思います。

これまでもこのコラムでは、羊や羊毛の特性や構造、加工品や歴史など、様々な視点から

羊に向き合ってまいりました。衣食住・環境維持・心身のセラピー・愛らしさ・多様な羊

からの恵みの可能性は、関わる切り口がたくさん用意されています。

大きな視点でみれば、はるか1万年前の人との出逢いがありました。家畜として進化を許 さなかった多くの動物がいる中、野生から家畜としての進化を「受け入れた」羊たち。そ の運命に想いを馳せてみること。人の命と羊の命との共振。その中でわたしたちのヒトの 遺伝子は、羊からどのようなものことを受け取ってきたのでしょうか。

一方で小さな視点でみれば、羊毛を触ったときの柔らかさと温かさから感じるあの安心感

や、羊を介して交流することを与えてもらった人の感情の粒。

それらの二つの視点は、時に入れ替わったり大きさを変えたりしながら、ハーモニーを生

み出します。

物質的なものから精神的なものまで、関わりしろのグラデーションはその人に応じて存在

しているのでしょう。

しかしその入り口は、一見すると一瞬で通り過ぎてしまう風のように、わたしたちの意識

から流れていってしまうものです。ふとした時には、目の前の「あたりまえ」の風景の中

に混ざり込んでしまいます。

わたしたち日本羊毛フェルト協会のメンバーは、そんな風景の中から、偶然にも羊や羊毛

というものから、関わりしろの入り口の扉を開けることができました。

そしてその扉の向こうには、羊毛のやさしさや可能性、自己創造感、共有する仲間、羊へ

の理解と尊敬など、「あたりまえの姿をした扉」からは遥かに想像を超える世界がそこに

は在ったのです。

わたしたちはそこで体感したものを表現し、それぞれの「羊からの扉」をつくって、世界

に開いて活動しています。

今回の展示会も、その開いた扉のひとつです。

お好みの扉をのぞいていただいて、みなさんと扉の奥の調和と体感を共有できることを、

心から楽しみにしています。


牧羊と里山の関わり

2022年9月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

秋の陽気が心地よい日が増えてきました。日々心休まることも痛むことも起こっていきま すが、この空に向かって息をはきだし、大いなる自然に受け取ってもらいたいものですね 。

さて今月は、熊本県阿蘇で行われている牧羊と里山の関わりについてです。

今年偶然にも訪れたこの土地で、真摯に真剣に羊と地域と向き合っている方々がそこには

いました。その想いを受け、体感したものを綴っていきます。

熊本県阿蘇市、そしてその隣の南小国町。

今でも火山活動がある阿蘇五岳の中岳を有する、阿蘇カルデラの北部に広がる地域であり

、豊かな里山としての草原が広がる場所でもあります。

世界的にみてもカルデラの内部で人が生活をしている地域は珍しく、水の豊かさや土壌の

質もあいまって、昔から自然と人が共存してきた土地です。

阿蘇と聞いて、何を想像するでしょうか。

噴煙が上がる火口、広く眺めるカルデラ、そしてどこまでも続くような草原。

そんな景色が思い浮かぶのではないでしょうか。

この草原は、毎年1回、人の手で全て焼かれていきます。「野焼き」という行事です。

古来より放牧や農業への活用とともに歴史を重ねてきました。 この野焼きを行うことによって、草木の高さはリセットされ、低い草原が維持されます。 すると、牛が食む食べものとなり、豊富な水を含める大地が維持されていきます。(林に なると木の蒸散により、地中の水分が蒸発しやすくなるそうです)

ただこの野焼きという行事ですが、人口減少と高齢化の煽りを大きく受けている現実があ

ります。

地域の人口や牛の牧畜の担い手が減っていることで、草原を管理しようとする人も減って

います。そうすると野焼きに携わる人手も減ってしまい、草の成長を放置される土地が増

えてきてしまいます。

一度里山としての機能を手放すと、取り戻そうとする際は大きな労力が必要となってしま

います。

また高齢になれば身体的な機能の低下から、安全も保ちにくくなってしまいます。草原を

維持していく力は、確実に何重にも減っていってしまっているのです。

この課題の一石として、この地域で今、大きな理念と未来を抱きながら牧羊に取り組まれ

ている人たちがいます。

阿蘇の大地の特徴と景色を、1000年先の未来にも繋いでいくための取り組み。 それが羊たちの力を借りた牧羊なのです。

草原の野焼きをする際、延焼を防ぐために草を刈ります。草原と草原のはざまを作って、

炎が止まるようにするためです。

広大な土地のはざまを人の手で作っていくのは大変な労力を要します。

そこで!羊たちの食む力を活用しようというのが役割のひとつとして期待されています。

山羊などでも行われている「天然の除草作業」を、羊たちで行ってもらうということ。

どこまでも続くような黄緑の草原を、たくさんの白い羊たちが群れている情景。

今年生まれた草を食べながら、牧歌的に過ごしている雰囲気。

里山の景色と機能をサポートしていく両立性。しかも羊が出す糞も肥料にもなり大地に還

っていく。

この循環の中に、自然も羊も人もちゃんと入っている。恵みをそれぞれ与え合い、生を繋

いでいく。

その動きが、いまこの時に、熊本の阿蘇という地域で行われているのです。

羊毛の難燃性

2022/8月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

当協会では毎月1回、勉強会を開催して交流や技術の学びを行っているのですが、

世の中の状況の影響もあり、定期的に集まったり情報交換したりすることができることの大切さをより一層感じています。

無理なく、ゆるく、でも真剣に!そんなことが自然体でできることがとても楽しいですね。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムのテーマは「羊毛の難燃性」です。

夏休みの時期らしく、実験映像も交えながら進めてまいります!

みなさん、「羊毛は燃えにくい」ということを、ご存知でしょうか?

あの柔らかいふわふわしたものが、実は難燃繊維に属するものであることをあまり想像できないかもしれません。

実はこれまでにも羊毛は、燃えては困るものや場所で活用されてきています。

例えば、飛行機のカーペット。上空の機内で万が一火災が発生し、燃え広がったら一大事。

このカーペットの素材のひとつにウールが使われていたり、消防士の服の一部にも使用されていたりします。(より機能を高めるために加工[Zirpro加工]が施されてたりもします)

また、江戸時代の火消しの親方の服がウール製であったという記述もあり、その難燃性が活かされ、広く利用されているのが羊毛です。

■ https://youtu.be/H4T-Sb7YNLw ■

これは羊毛の燃焼実験の光景です。

耐熱容器に羊毛を置き、ガスバーナーであぶっています。

すると表面が焦げたり小さく火が立ったりしますが、自然鎮火・手で扇いだだけで消火しました。表面より下や裏側は見る限りあまり影響がなさそうです。

文章では「燃えにくい!」と見聞きしていたものの、実際に実験してみると驚きはひとしおです。

あらためて、体感することはとても大切だと実感しました。

この現象の要因は、羊毛に含まれる「窒素」と「水分量」です。

「窒素」は燃焼を止める作用があり、その含有量が高いので燃え続きにくいのです。

また「水」は、最も安全な防炎剤と言われています。

そんな二つの成分を高い比率で持ち合わせているから、羊毛は難燃繊維とされているのです。

ちなみにOvis Lampの羊毛照明のシェードも羊毛100%ですが、この難燃性とLEDの熱処理性を活かし製作しています。

羊毛が焼けるときには、人間の髪の毛が焼けるにおい(アイロンコテなどで焦がしたことはありませんか!?)だったり、

革製品を焦がしたときと似たようなにおいがします。

これは、人の髪の毛と同じ成分が含まれていたり、羊毛が皮膚から変化していったものという成り立ちを考えるとうなづけることでした。

今月は羊毛の「難燃性」についてご紹介してまいりました。

あまり一般的には知られていない機能ですが、じつは工業的にはその性能はお墨付きであるこの難燃性。

羊毛を見る目も、少し変わってくるかもしれませんね。

参考図書:「羊毛の構造と物性」 日本羊毛産業協会 編集 繊維社 2015年

実験映像:Ovis Lamp提供


羊毛フェルトの魅力と可能性を振り返る!

2022年7月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

ここ埼玉は、思いがけず早々に夏の日差しが到来してしまいました。

全国各地の羊は、この暑さをどう感じているのだろう。あのもふもふさんたちに、機会があればその胸の内を聞いてみたくなるような気温になっています。

みなさんもどうぞご自愛ください。

さて、今月のひつじをめぐる旅コラムは、「あらためて!羊毛フェルトの魅力と可能性を振り返る!」と題してお届けしていきたいと思います。

わたしが羊毛を扱いだして3年と5カ月。

先人の方にしてみるとほんの序の口ですが、そんな中でも日々触れ合うことで感じる「羊毛フェルトの魅力と可能性」があります。

そんなフェルターの入り口にいる今のわたしから見える魅力や可能性とはなんなのか。

あらためて言葉にすることで、羊毛フェルトの理解を深めていきます。

①大きな道具が要らず、自宅の一室から始められる

世の中には様々なハンドメイドがありますが、羊毛フェルトはテーブルスペースだけで始めることができます。

これはものづくりを始めるうえで、とても有難いメリットです。

大きな電気工具や高価な専門器具も初めは必要ありません。(あると便利な道具はありますが)

最低限、水と洗剤、あるいはニードル、そして羊毛があれば作品をつくっていける手軽さは、

羊毛フェルトで作品をつくる大きな魅力のひとつだと感じています。

②自由度が高く、楽しみの幅が広い

羊毛フェルトの作品づくりは、とても自由度高く製作することができます。

縮絨した際の、羊毛の形状記憶性質を活かせるフォルムの成形や、化学染料にも天然染料にも染まる羊毛の染色性、

そして多種多様な羊の種類からなる様々な質感の原毛。

各々の好みや作風に合わせた組み合わせは、まさに千差万別の表現ができるでしょう。

形つくりの楽しみと、色遊びの楽しみ、そして手触りの楽しみを一度に体感できる。

羊毛フェルトの自由度と楽しみの幅広さは、それぞれの人がもつ想いを表現しうる、可能性が詰まっています。

③遥か紀元前から残ってきたとされる「伝統的な」技法素材であること

以前のコラムでもご紹介しましたが、羊毛フェルトの歴史は古く、その成り立ちは聖書にも記述があるほどです。

世界各地で、ときには衣類に、ときには住居に、様々な場所でつくられ使われてきた羊毛フェルト。

世界と比べると、日本では触れ合う歴史は多くはありませんが、輸入を通じて、文化財や火消の上着としてなどが生活の中に取り入れられてきました。

羊毛フェルトが特別な薬品や加工原料を必要とせず、暮らしの中にあるもので製作できる素材である。そのことも世界中の民衆の中で継承されてきた理由であり、今後の循環を必要とする世界でも活躍していく可能性を感じます。

④老若男女、国内国外と繋がる可能性がある

誰でもどこでも手にして扱えるような素材であることから、小さな子どもからご年配の方、ものづくりが得意な方から苦手な方も、それぞれに応じた品をつくっていけるのが羊毛フェルトです。

そして「自分にもできた!」という感覚を味わっていけるのも、自分や仲間とつながる大切な要素。その感覚にときには言語は必要ありません。

他国の品や技法をみて学び、羊毛フェルトを介して会話ができるようなひととき。羊毛フェルトという長い歴史の中育まれてきたものだからこそ、わかりあえるものがあるのではないでしょうか。

今月はあらためて、羊毛フェルトの魅力と可能性について振り返ってみました。

羊毛フェルトの歴史の営みを感じながら、新たなアイデアを吹き込んでいく楽しみを、

今あるその部屋から始めてみませんか。

フェルト仲間、いつでも大歓迎!いつかみなさんとお話できることを楽しみにしています。

糸車体験 最終回

2022/6月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、

Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうらあきお)です。

ここ埼玉では、窓から見える山の木々はしっかりとした緑色を帯び、

世界を洗い流すような雨も降るようになりました。

朝晩の涼しい風を浴びられるこの季節は、花粉も少なく暑さもほどよく、

自然環境が穏やかでとても安心して過ごせることを感じています。

さて、今月は糸車体験の最終回です。

使用しているニュージーランドのAshford足踏み糸車。

この丸みを帯びた装飾が、車輪・ボビン受けなど各所に施された美しさは、

日本のものにはあまりない感覚だと、メイドインジャパンの道具で糸をつむぐ作家さんは口にします。

丁寧に整えられた表面は、2歳児がどこでも安心して触れることができる仕上がり。

その子にちょっと使い方を見せるだけで動作を理解できる構造のシンプルさ。

そんな道具を今回も使っていきます。

撚りをかける仕組みが判明したので、いざ糸を紡いでいこうと、

椅子を置き、糸車の前に腰を下ろします。

スライバー状になった羊毛を、巻き取るためにボビンに繋がるたこ糸に括り付け、

右足で足踏みをしていきます。

足踏みでまわる車輪を回転させることによって、

撚りがかかり、ボビンの方に羊毛が巻き取られて、糸になっていきます。

その光景は感動的でした。

羊の体毛として生えていた羊毛が、

刈られ、洗われ、ゴミを取り、ようやく辿り着いた加工の瞬間です。

この糸が、手袋やセーター、人を守る衣類になったり、

部屋を彩る装飾品になったりしていきます。

その始まりを、この手の内で生み出せているという感覚の中に、

人の知恵と、幸せになろうという愛情を感じていました。

それはこの手仕事が、まだお金を得る前の、物々交換される前の、

家族の為、大切な人の為に使われる行為であったときの、

根源的な感覚に触れたのかもしれません。

まだあまり持ち合わせていないですが、

ここから生活のなかで使える品にまで加工できる技術を身につけたならば、

なにか大切な巡りの中で暮らしていけそうな気がしています。

実際の糸車の操作としては、やっぱり練習が必要だと思わされるものでした。

ひとつに、右足を踏んで車輪を回転させながら、手でボビンへの巻き取らせ具合を調整する、という異なった動きが生じること。

足踏みに気を使い過ぎると、巻き取らせる手がおろそかになり、撚りをかけ過ぎてしまいました。

また反対に手に意識を使い過ぎると、足踏みの回転がいつの間にか止まってしまい、撚りのかかり具合が変わってきてしまうのです。

巻き取らせが遅れることで回転が多くなりすぎ、撚りが硬く細い糸になってしまう。

かと思えば巻き取らせが早すぎて、ゆるゆるな糸ができてしまう。

初めてできた糸は、細かったり太かったり玉があったり、がたがたしたものになっていました。

一定の太さや硬さの糸を均一につくるという作業は、やっぱり練習と想いがこもったものだったのだなと

身をもって実感することになりました。

ただそれと同時に、そこからつながっていった先の豊かさを感じられたことも事実です。

この世界の、宇宙のほんの片隅で行う、糸を紡ぐということ。

そこにはひとつの行動と、すべての可能性が詰まっているのかもしれないと、

いま言葉を綴りながら感じています。

糸車体験紀

2022年5月

こんにちは!日本羊毛フェルト協会認定作家Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうらあきお)です。

暑くなったり梅雨のような気候になったり、季節の変化をよく感じることが増えましたね。

窓から望む山の木々も、新緑の若葉の淡い色味から濃い夏の緑へと少しずつ変化していっています。

さて今月は前回に続き、「羊毛を糸にする糸車」の体験記を書き綴っていきます。

前月は糸車を使うにあたってのお手入れについてお話しましたが、今月は実際に糸車を使用した「みんなで糸車練習会」の様子です。

せっかくお迎えした道具ですから、自分だけで使うのはもったいない!と思い、

不定期にアトリエを開放して「糸車体験」をさせていただいています。

その第一回目として、染め物作家さんとテキスタイルデザインを行う方とともに練習をしてみました。

みんな初めて触る糸車。

道具の仕組みも自分の身体の動かし方もわかりません。

まずは道具を触って眺め、

「ここを踏むと車輪が回るのか」「え、どこに羊毛を絡めるの?」「おぉー動いた動いた!」と、

羊毛を紡ぐ前にわいわい調べていきます。

木の滑らかな質感。

日本の道具にはない装飾。

仕組みの想像。

みなさん作り手の方だったので、道具への興味も高く、紡ぐ前からあれやこれやの賑わいに。

大人になっても子どもみたいに、無邪気に遊ぶような感覚。大切だなぁと感じました。

みんなで順に糸車の足ぶみを踏み、車輪の回転を回してみます。

踏めばぐんぐん回る糸車。回転する音や踏み込む足の感触を感じながら、

わー、これはどんどん糸が紡げちゃうね!なーんて、悠々と話しておりましたが、ここから技術の必要性に翻弄されていきます。

羊毛を糸車の左側にある回転するボビン部分に引き込み、Youtubeで紹介されている使い方動画を確認しながら、

いざ!足ぶみ踏んで糸紡ぎ!と動かしてみたら、なんと糸に撚りがかかりません。

車輪がどれだけ回っても、ボビン部分が回っても、一向にかからない羊毛への撚り。

なぜだ、なぜなんだ。

さっそく現れた課題。

いきなり作業ストップです。

1台の糸車に向かい合い、代わるがわる使い方を試していきます。20分くらいは3人で動画を見直したり、再トライしてみたりしていたでしょう。

そしてついに問題点を発見!

なんと、車輪の回転が逆だったのです。

後から知ったことですが、糸車は単糸を撚るための回転方向と双糸を撚るための回転方向があったようで、

わたしたちは初めは双糸方向の回転を加えていたのです。

えぇーーそんなところ!?と気づけばあっけにとられるのですが、この発見を積み重ねていけるところがものづくりの楽しいところ。

できることが増えていく。小さいながらも自己肯定感も高まるところです。

さぁ、これで糸がずんずん紡げるね!と意気込んで、羊毛を絡めて撚りをかけていくと、

ぶちっ…

あっという間に羊毛が千切れてしまったのです。

なぜだ…なぜなんだーー

一難去ってまた一難。

あちゃーと顔を合わせながら

むずかしくも楽しい糸紡ぎが続きます。

羊毛を糸にする道具「糸車」

2022年4月

こんにちは!日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうらあきお)です。

このコラム「ひつじをめぐる旅」は、今月号で2年目に入ります。

「羊」をテーマに、歴史や漢字、制作道具など、いろんな角度から羊を知っていってみようというのが、このコラムです。

いつもお読みくださっているみなさま、今回はじめてお読みくださったみなさま。

またこの1年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今月は羊毛を糸にする道具「糸車」についてです。

みなさん「糸車」という道具はご存じでしょうか?


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知っているけど触ったことはない方や、日々使っていますという方も

いらっしゃるのではないかと思われるこの糸車。

先日、わたしのアトリエもお譲りいただいたものが鎮座しました。

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実物を見たことも使ったこともなかったわたしですから、

さてさて、どうしたらいいのか検討がつきませんでした。

しかしよくはわからなくてもこれは道具。

「まずは分解清掃して、構造を理解しよう!」

というところから、糸車とのお付き合いを始めました。

メーカーであるAshford(アシュフォード。糸紡ぎやカーダーなどの道具を製造している1934年創業のニュージーランドの会社)のページから、

取り扱い説明書をダウンロードして、まずは分解していきます。

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説明書を逆から読みながら分解すると、動く仕組みやメンテナンスが要りそうなところがわかってきます。

足踏みの動きで車輪につながるゴムが引っ張られ、回っていきます。

メンテナンスとして、回転の速いところにはグリスを、足踏みの軸には蝋を塗ってと書いてありました。

こういった回転系の道具では、日々のグリスメンテナンスがとても大切になってきます。

それは、摩擦によって、本体が摩耗してしまうことを防ぐためです。本体の金属部分や木部分を修復することは難しく、特に木部分は削れてしまうと穴が広がってスカスカになってしまい、正確な動作ができなくなってしまいます。

過去に工房で働いていた際、「道具は自分の手足。道具があるから仕事ができる」という考えのもと、やはり使い始めと使い終わりのメンテナンスは大事にしていました。

ときには作業を止め、しっかりと向き合うことも大切です。

そうして分解をし、グリスの塗り直し。各パーツを少し濡れた布で拭き汚れを落とし、乾拭きでホコリを取り除いていきます。

さらに木の乾燥を防ぐため天然油を薄く塗り、オイル仕上げを施していきます。木は製材されても呼吸をする素材です。湿気や乾燥で傷みや歪みが起きる可能性は0ではないので、天然素材ならではの日々のお付き合いがここにはあります。

そうやって各パーツのメンテナンスと掃除が完了したら、いよいよ組み立て直します。

今度は説明書を順番通りに組み立てていくと、新たに生まれ変わったような気持ちになっていきます。

手をかける余地があるということは、こういう豊かさも感じさせてくれます。

ガタガタしていた本体はしっかりと立ち、はじめはやや動きが鈍かったら車輪の回転も、スムーズに音も小さくなりました。

オイル仕上げをした油の匂いが少し残る木の表面も、艶やかにしっとりとした雰囲気に変わり、なんだか高級感が増したような気になります。

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こうやって道具と向き合う時間は、時間がかかると思われがちですが、取り組んでみるとそれ以上の経験が得られます。

構造を理解すること、整備ができること、素材を知ること、愛着が湧くこと。

ぜひみなさんも身の回りにある道具と、少しだけ向き合ってみてはいかがでしょうか。

次回は実際に糸車を使ってみた「みんなで糸車練習会」の様子をお届けします。 

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画像はashford webサイトより https://www.ashford.co.nz/)

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鎮座した糸車




画像3   分懐中!




画像4オイル仕上げ

羊とわたしたち

2022年3月

こんにちは!日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうら あきお)です。

昨年4月から掲載してきたこのコラム「ひつじをめぐる旅」も、今月で丸1年となります。

羊が関わるいろいろな面を、ひとつずつお届けしてまいりました。

羊の多様性、歴史、文化、そして羊の彼らについて。それぞれの入り口を感じていただけていたら幸いです。

この場を借りて、応援くださったすべての方へ感謝申し上げます。

引き続き、2年目もよろしくお願いいたします。

今月は、これまで体感してきた羊とわたしたちについて、綴っていきたいと思います。

遥かむかし、カモシカを祖として進化してきた羊。

それぞれの環境に適応し、自然のなかでの生を生きていたのだろうと想い描きます。

その営みの中で、ヒトは羊と出逢い、1万年前から羊の恩恵を受けるようになりました。

モンゴルの遊牧民の羊への対応をみると、それがいかに命と命のやりとりであったかを思い知らされます。生かされ、想い、感謝する。その謙虚な姿勢が表現されています。

ヒトはその飢え、寒暖、大地からの痛みを、肉や、毛や、ぬくもりをもって、羊から享受してきました。世界に広がる大きな宗教に、羊を禁ずるものが少ないことも、ヒトがどれだけこの命を支えてもらってきたかを想像させます。

また一方で、ヒトは羊に価値をつけ、自らの暮らしを余りあるものにするために利用してきました。

資源としてではなく、資産としての羊のやりとり。大航海時代、かつてのスペインがメリノ種を囲み、財を築いたように。各国がそれに応じ品種改良をすすめたように。ヒトは羊のエネルギーをつかってきたのです。

羊毛もその流れの中で、品質・抜毛具合・適応性を考慮し選抜されてきました。

過去を変えることはできませんが、今、わたしたちの目の前にあるものを味わい考えることができます。

多くの羊の毛は、自然と生え代わるものではありません。それはヒトによって為されたことですが、毎年刈り、羊の身体を守り、ヒトは羊毛を得ます。

互いの生を共有しつつ、羊から毛という享受を受けられ、それによってヒトの暮らしが豊かになること。

傷つけあったり、命を削り合ったりするのではなく、双方の命を支え合うことができる関係性。このコラムの執筆を通じて、わたしはここに羊毛の魅力と豊かさを感じています。

どうかこの循環がやさしく、傷つけず、命を支え合うものでありますように。

そう願っています。

これを書いている2日前。ロシアによるウクライナへの”侵攻”というニュースが世界を覆いました。

ただ、情報はいつでも断片でしかありません。たとえ現地で体感したとしても、それはやはり断片でしかないでしょう。

その断片の中になにを見い出し、自分の中になにを感じるのか。そしてそれを表現することで、また自分に落とし込んでいきます。

現象は異なりますが、願いは同じです。

すべてのことが、やさしく循環し、傷つけず、命を支え合うものでありますように。

嶋浦 顕嶺 

羊毛とアンティーク

2022年2月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦です。

早くも2022年も2月となりましたが、

みなさま今年はどのように感じておられますか?

わたしは今年より埼玉県の狭山市にアトリエをオープンし、

そこでの過ごし方を日々味わうことを大事に感じています。

みなさまの想い描く時間が過ごせていくことを願っています。

さて、そんな時の流れを感じる今月のテーマは

「羊毛とアンティーク」です。

「アンティーク」とは、元々ラテン語で「古い」という意味を表す「アンティクウス」で、

フランス語として変化していく過程で「骨董」や「古美術」といった意味合いを

帯びるようになっていったといいます。

その定義はきっちりと定まっているものではなく、それぞれのニュアンスで使用されているところがある言葉です。

1993年、ロシアの考古学者ナタリア・ポロマスクは、シベリアの険しいアルタイ山脈にある巨大な古墳があります。

そこで「アイス・メイデン(氷の乙女)」と呼ばれた地位の高い女性の墓から、フェルトでつくられた長さ3フィート(約0.9メートル)の頭飾りが、驚くほど良好な状態で発見されたという。

ここに住み着いた方々にとって、羊毛がいかに重要なものであったかを物語っています。

[参考図書:「羊の人類史 サリ・クルサード著 青土社 P22]

羊毛のアンティークというと、想像にあがるものが「敷物」です。

日本では奈良の正倉院に保存されている「花氈」に羊毛が用いられており、その歴史的な価値が認知されております。

参考資料:正倉院の花氈に関する報告 ー本出ますみー

     https://shosoin.kunaicho.go.jp/api/bulletins/42/pdf/0421001040

     https://shosoin.kunaicho.go.jp/api/bulletins/42/pdf/0422041064

またギャッベ、タブリーズ、バルーチ、キリムなど、中東の遊牧民の方々がつくられたものも広く知られており、ウールや綿を天然染めしてつくられているものが多くあります。

参考サイト:https://carpetavenue.jp/

遊牧民たちは、生活をともにする羊たちの毛を用い、

その移動のあいまに組み立て式の織機をつかって、生活のための道具をこしらえていました。

テント、馬具、荷物を運ぶための袋、絨毯などさまざまです。

そしてそれらは、暮らしのため、家族のためにつくられているものも多くありました。

部族の方が家族用につくられたキリム絨毯をみたとき、つくられる手間、模様に込められた願い、実用性など、つくる人、使う人に対する気持ちを感じることができました。

そこには商売ではない、家族の生に対する愛と祈りが織り込まれているように思います。

そんな感情を感じさせてくれる「アンティーク」と呼ばれる羊毛の品々。

羊の毛は時を越え、大切なことを伝えてくれます。

遥か昔の人々が、目の前の大切なもののためにこの羊毛をつかったように、

わたしたちも目の前にいる大切なものことのために、

ひと手間ひと手間、想いを込めていきたいものです。

きっとそれは100年経ったあとにも、受け継がれていくものではないでしょうか。 

道具・ニードルについて

2022年1月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(あきお)です。

2022年が始まりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、今月は羊毛にまつわる「道具」のお話をさせていただきます。

羊毛の道具というと、どんなものを思い浮かべますでしょうか?

羊毛人形をつくる「ニードル」、羊毛を糸にする「スピンドル」「紡ぎ車」、羊毛をほぐして綺麗にする「カーダー」。

その他にも織り機や細かな道具がたくさんありますね。

その中から今日は、使う方が多い「ニードル」についてご紹介してまいります。

寒さ厳しい冬のおこもり生活のなか、

いつもより少し道具のことを知って、

こんな道具を使うとこんなことができるんだ!という想像を描いていただけると幸いです*

ニードルやフェルティングニードルといった名称で販売されているこの道具。

その歴史は、元々はイギリスの不織布を作る会社の機械の一部で、

そこから1本だけ取り出して造形を始めた…と言われています。(その人物はわかっていません)

ちなみに日本で、羊毛フェルトの本に初めて登場したのは2002年頃。20年前とかなり最近になっての手法なのです。

そんなニードルには

大きく分けると以下の種類の違いがあります。

①針の太さ

メーカーによって「太針、中針、極細」といったさまざまな種類が製造されてます。

各社「極細」と言っても、それぞれ太さが違っていて、例えば協会で「まとめ用」として使っているものは実は他社の「極細」だったりします。

なので、まずは使ってみて指の感覚で自分で羊毛のフェルト化に伴って使いやすいニードルを探していくことも大切かと思います。

太針は、大きな作品や力が加わりやすい土台などに適しており、硬いパーツを製作したいときに役立ちます。

反対に極細タイプは刺し跡が目立ちにくく、表面の仕上げや細かい造作を施す際に役立ちます。

これを使い分けていくと、作業性も仕上がりも増してきます。

②返し(バーブ)

ニードルの先端には「返し(以下バーブ)」という金属の反り返り部分が施されています。

この細かいバーブに羊毛の繊維が引っかかり、刺し引きすることで羊毛が絡まり、どんどん密度が上がって固くなっていく仕組みです。

またこのバーブには、「上向きタイプ」と「下向きタイプ」があります。

「刺して引いたときに繊維を絡めてくるか、差し込んだときに繊維を絡め押し込んでいくか」という動きの違いがでてくるものです。

一般的なものは「下向きタイプ」の押し込み固める。じゃあ上向きは?

上向きは繊維を「引き抜き」ます。つまり繊維を引き抜き「ふわっとした質感」を出したいときに活用されます。

いわゆる動物の毛並みを表現する際の「植毛」という技法とともに、毛の表現として使われています。

③バーブの位置

上記の繊維を引っ掛けるためのバーブですが、「1本あたりの数とその位置」にも違いがあります。

針の先端にたくさん集まっているタイプは、浅く刺してもよく絡みます。

厚みのないパーツ(裏側にまで突き通すと穴が目立つ場合がある)、表面を綺麗にしたいときにおすすめです。

反対により一般的なバーブの位置が広がっているものは、通常時に使用することが多く、

厚みのあるものを刺したりするなどに適しています。

(引用:クロバー株式会社HP)

https://www.clover.co.jp/seihin/felt.html

今月は近年広く知られるようになりました「ニードル」という道具について、

少し踏みこんでご紹介してまいりました。

これらの違いを理解しながら道具を使っていくことで、よりやりやすく、より仕上げ良くしていけるかと思います!

ぜひ購入の際には、各メーカーさんや販売店さんの「仕様詳細」など、注目してみてください。

ちなみに、無理な力が入らないように、

「ニードルは人差し指と親指の2本で持つ」のが、日本羊毛フェルト協会流のニードルの持ち方です★

そんなことも思い出していただきながら、

どうぞ冬のおこもりワークをお楽しみください^^

羊の種類

2021年12月

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

今年はなんだか冷え込みが早いように感じております。みなさまの周りはいかがでしょうか?

足元や首回りなど、「三首」の保温を意識していきたいところです。

さて、今月のコラムは「羊の種類」についてお届けします。

羊は、おそらくみなさんがご想像しているよりかなり多くの種類が存在しているかと思います。(わたしも初めて聞いた時は驚きました)

いったいどのくらいの種類がいると思いますか??

...

その数は世界で3000種もの羊が確認されているという説があり、

国連食糧機関に登録されている羊でも、1229種類います!

3000種の羊たち。

顔つき、毛並み、角の有無…どうでしょうか、その違いを想像できますでしょうか??

以前にもご紹介したように、羊と人の関わりは約1年前からと言われ、

家畜化は8000年前の北イラクから始まったとされます。

この長きにわたる関わりの中で、様々な品種改良が行われてきたことも要因のひとつでしょう。

ここからはいろんな特徴をもつ、多様な羊たちをいくつかご紹介していきます!

顔立ちや羊毛のかんじなど、ほんとうに様々なのです!

<羊の祖先「アンテロープ」>

1500万年〜700万年前の中新世紀に、ヨーロッパやインドに分布していたカモシカのアンテロープが羊の祖先と言われています。

<なめらかな毛質が特徴「メリノ種」>

スペインで品種改良された品種。羊毛の中では最も細い毛のひとつで、ウール産業においてメリノは最重要品種と言われています。湿気に弱く放牧に適していることから、日本での飼育はなかなか定着しませんでした。

<世界各地で飼育されてる「コリデール」>

19世紀にニュージーランドで品種改良された品種。良質の毛と肉質が良い毛肉兼用の羊です。フェルト化しやすく、立体的な造形に向いています。

<フィンランドの在来種「フィンシープ」>

嶋浦がフィンランドに旅行にいく際に、「あっちにも羊がいるのでは!?」と調べて知ったフィンランド在来の品種。シュッとした顔立ちとスマートな体つきが綺麗だなーと感じた羊です。

<重厚な見た目「ハードウィック」>

イギリス品種のなかで最も古い品種のひとつとされており、原種に近いと言われています。短く見える脚にがっしりとした体格は、重厚さと愛嬌が合わさったようなかわいらしさを感じます。

ピーターラビットの著者が保護・飼育に注力したことでも知られています。

<これも羊!?「ウェンズデリーデール」>

イギリスの品種。30cmにもなるクルクルとカールした光沢のある長毛が特徴です。

イギリスはスペインメリノに対するように、様々な羊を品種改良しています。

いかがでしたでしょうか。

羊の適応性の高さと人の願望が相まって、世界にはこんなにも多種多様な羊が存在しています。

ちなみに日常的に手に入る羊毛は30種類ほどでしょうか。まだまだ見たことも触れたこともない羊が世界にはたくさんいるようです。

みなさんもお気に入りの羊!を見つけてみてはいかがでしょうか*

たくさんの羊が載っているページをシェアしまして、今月のコラムはここまでにいたします。

今月もありがとうございます。

http://bib.ge/sheep/sheep_breeds.php?lang=japanese

[参考図書]

「羊毛の構造と物性」日本羊毛繊維協会 編 繊維社 2004年

「ヒツジの科学」田中智夫 編 朝倉書店 2015年

「羊の本」 本出ますみ 著 スピナッツ出版 2018

(社)日本羊毛フェルト協会 講座テキスト

【羊毛】

2021年11月

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺です。

春から始めたこのコラムも、寒さを感じる季節まできました。

夏のさらっと使いの羊毛アイテムもしかりですが、冬のぬくぬくアイテムが恋しい時季になりました。

そこで今日は、そんな羊毛のぬくぬくの秘密について、あらためてご紹介していきたいと思います。

羊毛。

それは自然から命を守る役目をおった重要な生き物の一部です。

そもそも羊毛とは、

羊の身体を自然環境から守るため、その機能を果たしています。

雨が降るときもあれば、暑さが降り注ぐこともありますね。

その変化から命を守る機能を担っているのが、羊毛なのです。

その仕組みの秘密はなんなのでしょうか。

<羊毛のぬくぬくの秘密① ー水をたくさん含めるよー>

羊毛は、多くの湿気を取り込むことができます。

その吸湿率は、標準の状態で綿の約2倍。ポリエステルの約20倍といわれています。

そうすると肌表面が蒸れずに、汗冷えを抑えて、サラッとする。そんな効果がでてきます。

また一方で、

水が繊維に吸い着くと、熱が発生するという作用があります。

(ヒートテックはこの作用をバランスよく利用した製品です)

羊毛繊維自体が内部に含める水分の割合は「33%」と、

繊維の中ではとくに多くの水分を含むことができます。

つまり、「多くの水分を吸いつかせることができる」ということになります。

ここで「水」を「汗」に置き換えて考えてみましょう。

羊の身体から出る汗や水蒸気。

これが肌に近い羊毛に吸い着き、熱を出しているのです。

自分の出したもので、自分を守る熱を出す仕組み。

これが備わっているのが羊毛の特徴です。


<羊毛のぬくぬくの秘密② ー空気をたくさん含めるよー>

空気って、とても高い断熱性があるものなのです。

金属と比較すると、1万倍熱が伝わりにくいともいわれています。

そんな高い断熱性のある空気を、羊毛はたくさん含むことができるのです。

「空気を含むとはどういうこと??」

それは羊毛のちぢれ(捲縮・クリンプ)の影響です。

羊毛の繊維を眺めてみると、クルクルと曲がっていませんか?

あの構造です。

この細かいちぢれの役割で、空気をたくさん繊維に纏わせることができるのです!

「高性能な断熱材が、繊維にたくさんまとわりついている」

そんなちぢれが冷たい外気とのバリアになり、

結果内部(羊からしたら身体の)の熱が覆い守られるのです。

このように「熱を生む水」と「熱を守る空気」を含みやすいというダブル効果もあって、

羊毛のぬくぬくは保たれているのです。

今回は寒さを感じる時季ということもあり、

あらためて羊毛のぬくぬくについて紐解いてみました。

冷えは健康の大敵!

帽子、マフラー、肌着など、

羊毛をお肌に近づけて、ぬくぬくした冬のライフを楽しんでみてはいかがでしょうか。

[参考図書]

「羊毛の構造と物性」日本羊毛繊維協会 編 繊維社 2004年

「ヒツジの科学」田中智夫 編 朝倉書店 2015年

「羊の本」 本出ますみ 著 スピナッツ出版 2018

【羊毛と加工】

2021年10月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺です。

残暑も薄れて秋の心地よい空気を感じる季節になりましたね。

わたしはこの季節がとても好きで、

こんな日は空の雲を形をぼんやり眺めるのが好みの時間です。

(花粉症に苛まれることもない穏やかな日々!)

さて、本日のコラム「ひつじをめぐる旅」のテーマは、

「羊毛と加工」と題してお送りします。

羊毛はその特性を活かして、昔からの様々な加工が施され、

人々の暮らしを助けてきてくれました。

羊たちの恵みと人々の知恵をかけ合わせていくと、

まだまだ新しいものが生まれる可能性を秘めている。

そんな加工方法の一部をご紹介します。

<縮絨させる>

代表的な加工方法です。「しゅくじゅう」と読みます。こちらは、

「水分とアルカリ成分(石鹸とか)と摩擦で、羊毛がぎゅぎゅっと絡んで密になって固くなる」

という性質を使った方法です。

コースターや服、鞄やテントといったものが作れます。

羊毛の種類によって風合いがまったく変わってくるところが、羊毛loverたちには沼で愛らしいところ。

家庭にある道具(お湯、洗剤、手)でできるので、比較的かんたんにチャレンジできるのがありがたい方法です!

<ニードルを使う>

今や色んなところで見るようになりました羊毛の人形やアクセサリー。

これを作るには「ニードル」という道具を使用しています。

ニードルには様々な用途に対応した種類もあり、

広い範囲のためのもの、表面を滑らかに仕上げるためのものなど、

使い分けることによって精度や楽さが変わってきます。

プロの方だとお気に入りのメーカーがあるようなので、

色々使い分けてみるのもお楽しみポイントだと思います!(道具好き観点)

<染める>

羊毛の染めには様々な方法があります。

化学染料を使った化学染め、植物染料を使った植物染め。

また藍染や土顔料のベンガラ染めなども可能です。

動物性の繊維ということもあり、応用の幅が広いのが特徴です。

道具が必要なものもありますが、自宅の台所でもできる染めもあります。

わたしとしては染めの方法は、色が染まると偶然性や意外性も見れて、「おぉぉ…こんなふうになるのか!」と声がもれます…

世界が一変するようなこの方法、とても楽しいです!

(材料参考サイト)

植物染め…

三木染料店

天然染料 - 紡ぎ車と世界の原毛アナンダ

藍染…

 田中直染料店

ベンガラ染め…

古色の美


他にも代表的な方法には、「紡いで糸にする」「織る」「違う種類や色の毛を混ぜる」といったものもあります。

1つの手法だけでなく違う手法をかけ合わせたり、違う素材(ガラスや光などなど)と合わせることで、

まだまだ新しいものがたくさん生まれてきます!

ぜひ自宅で手軽に試せる、羊毛のものづくりをお楽しみください☆

実体験!マンクスロフタンの毛刈りから

2021年09月

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会 認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

このコラムは4月にはじまり、「プロローグ」「こんなものにも羊毛が」「羊毛の7不思議を知ってほしい!」「羊毛は呼吸する」「羊と漢字」と、いろんな角度から羊についてご紹介しています。

(過去記事は下にスクロール↓)

羊のことをあまり知らない方が、どんな特性・歴史があるのだろうと好奇心を持っていただいたり、

羊ってこんな一面もあるんだと深めていただけたらと思いながら、文を書いています。

関心を抱いてくださる方が増えて、ひともひつじも、より豊かなを暮らしが送れることを一個人ながら願っております。

さて、今月のテーマは「実体験!マンクスロフタンの毛刈りから」と題しまして、

わたし自身が体験したことからご紹介をいたします。

マンクスロフタンとは、羊の品種の名前です。

故郷は英国自治島のマン島。英国では希少家畜保護トラフトの保護下にあり、

日本には1990年に保護・保存の目的から20頭がきました。

舞台は埼玉県のとある民家。ここに羊(さっちゃん)1頭を飼育しているご家族がおり、

今回はそんなマンクスロフタンとフライスランドという品種がかけ合わさった羊の毛刈りをさせていただきました!



(愛嬌のあるさっちゃん。屋根草になってるブドウの草が大好き)

力が強く、お腹が空くとゲージにガンガン頭突きをしてくるさっちゃんですが、

頭をなでても怒らないやさしい羊です。

季節はあたたかくなる5月。多くの家畜の羊ははるか昔からの品種改良により毛が自然には抜け落ちないため、

1年に1度、人の手によって毛刈りをします。

通常よくみる羊の毛刈り姿は、羊が座ったような姿勢でバリカンで刈っていきますが、

このさっちゃんは力が強く、足払いのごとく横倒しにして、角を持ってガッシリと頭を押さえつけます。

頭押さえ役、下半身押さえ役、はさみ役の3役で進めていくのですが、

これでも途中、唐突に暴れて脱出を試みてきます。

この時はさみ役は、強烈なヒヅメキックを受ける可能性が高く、

いつ炸裂するかわからない緊張感の中、カットを進めていきます。動物の身体能力の強さを痛感します。

カットの道具はモンゴル製のはさみ。切れ味が良くザクザクと切れるのですが、

羊毛についている脂(ラノリン)等で終盤には切れ味が落ちることもあるので、

必要に応じて研ぎ直しをしながら進めていきます。

はさみには和ばさみのような構造のものもありますが、切る際に握力をよく使い疲れやすいので、

この一般的な形のはさみが使いやすいとのことでした。

さっちゃん爆裂キック(!)の様子を伺いながら、

皮膚を切ってしまわないように、でも毛残りが少ないように皮膚に近いところを、慌てず切り進めていきます。

よく映像で見るような一枚毛皮のように切るのって大変なのがよくわかります。あれは、プロの技でした。

途中で立ち上がってしまったら落ち着くまで放置して、半分終わったらお昼休憩を挟んで午後また再開。

何回も起き上がってしまうと中断が増えて、1日がかりになってしまうこともあるそう。

両面頭と全て切り終わったところで、ようやくさっちゃんに食べ物を食べさせます。

先に与えてしまうと腹が圧迫され、倒した際に支障が出てしまうのだそうです。

羊も人も長時間の作業となりますが、自らも刈った羊毛にはすごくリアリティを感じました。

生きているものから刈り分けた生の羊毛。こうやって羊毛を衣食に活かしていったのかと思うと、

とても愛おしく感じて、さっちゃんに感謝の気持ちが湧いてきました。

今年もがんばってくれてありがとう。

また来年も元気によろしくね、と。

<参考文献>

レア・シープ研究会(https://rare-sheep.jp/manxloghtan/knowledge)

2021/08/11

『羊と漢字』

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会 認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

早いものでこのコラムも第5回目となりました。

羊にまつわることをいろんな角度から書いていますが、

今月は「羊と漢字」をテーマに書き進めていきたいと思います。

さて、いつもあまり意識せずに見ている漢字(そんなことないよ!という方は、わたしと同じ種類ですね!)ですが、

思いのほか「羊」が関わっている漢字があることに気づきます。

漢字は一枚の絵画のように、その形や情景などを線で意味を表しているものです。

その発端は、人と羊の関わりにあるように想像します。

羊はかつて、富そのものでした。

その範囲は広く長く、大航海時代を支えた資金にもなったといわれています。

そんな世界からも伝わっていったであろう「漢字の中の羊」。

今日はそんな世界をご体感ください。

【基本の「羊」】

まずはこちら、「羊」です。

これは象形文字といって、ひつじの一部(頭や首)を表したものと言われています。

羊の面長な顔や、角の様子が伝わってきますね。

【羊は「よいもの」】

羊が含まれる漢字の中には、「よいもの」という意味合いのものがあります。

一つは「美」です。上の部分が羊の文字です。

前述しましたが、羊は富そのものであった時代があります。

「大きい羊はよいもの」という昔の人の感覚が感じられます。

他にも「善」、「祥」、「詳」なども同様の意味合いを含んでいます。

【広がりを感じる】

広大に広がる羊の光景を感じるものもあります。

「洋」という字にも羊が含まれています。

わたしはこの字をみると海を思い浮かべてしまうのですが、

「広く大きい、いっぱいに広がる」という意味合いがあるようです。

広大な草原に羊の群れ(あ、ここにも)がたくさん広がっている様子が、

海に広がる白波になぞらえられたのでしょうか。

昔の人の想像の豊かさを味わえます。

【よきものをつなぐような】

今回調べていて印象的であった漢字を最後に紹介します。

それは「繕う」です。

先にでました「善」という字に糸へんが組み合わさっています。

よきものを糸にし、その糸で家族や仲間の衣を大事に直すような…

そんな情景が浮かんできます。

すごく、愛を感じてやさしい気持ちになりました。

いかがでしたでしょうか。

他にも「養」「鮮」「羊羹(お菓子のようかん。羹の字にも羊がいる)」といったものにも含まれており、

人と羊の付き合いの深さが思い浮かばれます。

今月もお読みくださりありがとうございます*

次回は「実体験。マンクスロフタンの毛刈りから」をお届けします。


[参考文書]

漢字辞典ONLINE https://kanji.jitenon.jp/

2021/07/11

ー羊毛の7不思議 Part.2 〜「吸湿性と放湿性」より〜ー

【羊毛は呼吸する】

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(あきお)です。

7月に入り、気温も湿度もぐんぐん高まってきました。

そんなこの季節、みなさんはどんな服装を選びますか?

今では多くの機能性化学繊維の衣類がありますので、常用している方も多いと思います。

冷やっとしたり、伸び縮みしたり、快適なものが多いですね。

さて、ここでも羊毛が登場してきます。

みなさんに質問です。

「羊毛を使った衣類」と聞いて、何が思い浮かぶでしょうか?

セーター、靴下、スーツにマフラー・・・

防寒用具のイメージがあり、

なんだか今の時季には暑そうだなぁという印象はありませんか。

.

でも実は羊毛って、

とても『吸放湿性に優れている素材』なのです!

例えば汗管理が大切な山岳アイテムや下着。

また最近ではテニスのアンディー・マレー選手が、ウールユニフォームを着用してウィンブルドンに復活するというニュースが出るなど、多様なシーンで活用されています。

→ブランドメーカーHP

https://castore.com/pages/amc

→Tennis Magazine ONLINE 記事

https://tennismagazine.jp/article/detail/16381?page=1

今でも過酷な環境で使用されている羊毛。

雨をはじいても服内の熱気を吸い、さらりとした肌触りが続く。

その秘密はなんでしょうか?

それは羊毛の繊維の構造にあります。

羊毛繊維のわずか0.1%、一番表面の「エピキューティクル」という部分が疎水性(物の表面で水が薄く広がらないで水滴となるなどの性質を持つこと)を持つ以外、

残り99%以上は水が広がりやすい構造になっています!

つまり、湿気や水を溜め込める部分が多いのです。

しかもこの部分はまわりの湿度が高くなるほど、

より多くの水分を保つ性質がなります。

その保水力。羊毛は最大で約33%。ポリエステルが0.4%ほどしか吸収しないので、

比べるとその保水力の高さが際立ちます。

そうして吸われた湿気は、繊維の内部の働きでまた大気中へ発散されていきます。

(科学的で難しくなるので割愛します。気になる方はぜひ参考書籍をご覧ください*)

『汗をしっかり吸って溜めて、毛の中で水蒸気に変えて出してくれる』

吸って出す。まさに呼吸をするかのような構造です。

羊毛の衣類が快適な秘密。

それは羊毛が生きものの一部であるからこそ備わっている、

生きるための大切な機能があるからなのでした。

服やスリッパ・ストールなど、

この夏になにか1つ、羊毛の力を感じるものを身につけてみてはいかがでしょうか。

次回は国語のお勉強。『羊と漢字』をお届けします*

[参考書籍]

日本羊毛産業協会編集「羊毛の構造と物性」 繊維社 2015

田中智夫編集「ヒツジの科学」 朝倉書店 2015

2021/06/15

『突然ですが、羊毛の7不思議を知ってほしい!』

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(あきお)です。

今月の羊コラムは羊毛の7不思議である、「羊毛の7つの機能」をご紹介していきたいと思います!

羊毛にはその独特な毛繊維の特徴があります。

化学繊維では併せて持つことが難しい、多様な性質です。

それが次の【7つの性質】です。

1、撥水性と吸水性の両立

2、防汚性と染色性

3、吸湿性と放湿性

4、保温性

5、難燃繊維である羊毛

6、毛が絡み合うフェルト性

7、科学的な形状記憶性

ちょっと○○性が多くなってしまいました。

前半は相反するような性質があることを、後半はあまり聞き慣れない言葉が並んでいると、感じられるかもしれません。

これら7つをすべて併せ持つ、不思議な繊維が「羊毛」というものです。

今回はまず「1、撥水性と吸水性の両立」をご案内してまいります。

撥水性と吸水性。それぞれの言葉を辞書で引くと、

撥水性とは「水をはじく性質」。吸水性とは「水を吸う性質」とあります。

はじくのか吸うのかどっちなの!!ってなりそうです。

そんな羊毛とは、元々は羊の身体を覆っているもの。

雨風などの自然与件から、体温の低下や病気を避けて、身を守る必要があります。

生きのびるための、重要な第一の防護手段です。

はじくことは「入れないこと」。そして水を吸うことは「保温」などの命を維持する機能に繋がっていきます。

(繊維内部で「水がめ」のような状態になっていきます。詳細は文字数の関係で割愛します。参考書籍等をご参照ください)

それを同じ「毛」で行える能力を持つものが羊毛なのです。

みなさんの髪の毛にも「キューティクル」があります。

髪の毛を指でつまんで、先端から根元に滑らせると抵抗を感じることができるあれです。

(髪の毛のキューティクルの大きさは約1000分の1ミリ。人間の指先はこんな微細なものも感じられます。すごいですよね。)

そんなキューティクルが羊毛にもあります。4層構造になっていて、それが水(水溶性のもの)をはじいたり、水を受け入れたりする役割を果たしています。

例えば水溶性のものをはじく実験として、汚れに見立てた醤油を羊毛フェルトにかけた動画があります↓

https://youtu.be/UKQH348UlMo


想像以上に不思議なほど、スルスルと汚れが滑り落ちてしまいました。

こんな機能をもつ羊毛を、みなさんだったら何に活かしますか?

水をはじいてほしいもの。帽子やテント?

水を吸って保ってほしいもの。コースターや敷きもの?

この特徴一つとっても、活用方法が広がっていきます。

まだまだ可能性が秘められている羊毛。ぜひアイデアをお寄せくださいね。

次回は引き続き、「羊毛の7つの特徴」からピックアップしていきます。

[参考書籍]

日本羊毛産業協会編集「羊毛の構造と物性」 繊維社 2015

日本羊毛フェルト協会 作家養成コース講座資料 2019

毎月11日更新

2021/05/11


こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

今月のひつじコラムは

「こんなものにも羊毛が」というテーマでお届けいたします。

さっそくですが、ここで1つ質問です。

「羊毛」と聞いて、どんなモノを思い浮かべますか?

例えば

セーター、布団、カーペット、只々もふもふ…など、色々思い浮かべられるのではないでしょうか。

じつは羊毛は、かなり多様なことで使われています。

今回はそんな「これも羊毛だったんだ!」というものを3つご紹介しながら、

羊毛の多能性を楽しんでいただければと思います^^

それでは参ります↓

◇その1 「ピアノ」

みなさんご存知のピアノ。

ピアノは箱の中にある弦を叩いて音を響かせている楽器です。その弦を叩く部分を「ハンマー」といい、弦に触れるところは羊毛100%で作られています。

羊毛の特徴である『縮絨・フェルト化』がされたとき、弾力を持った硬さが生まれます。

その硬さが、鍵盤からの打力を弦に伝えるのに適しているとされています。

◇その2 「テント」

羊を連れて大草原を移動するモンゴル。

住居として使われているテント『ゲル』は、大きな羊毛フェルトの生地を使い組み立てられています。

フェルトを作るには、「温度・アルカリ成分・摩擦圧力」の3つが必要となります。

テントにするくらいの大きな生地は、丸めた生地を馬に引かせて転がしたという製法もあります。

羊毛には繊維の性質から『断熱性と撥水性』を備えており、草原の冷たい空気もストーブとテントでしのぐと言われています。

◇その3 「埋葬装身具」

シベリアの山脈にある約2000年以上前の墓から、地位の高い女性の遺体が発見された時、身につけていたのがフェルトの帽子であったといいます。

かつて家畜としての羊は今よりはるかに大きな富そのもので、地位の高いもの、国が管理するものなど、その重要性は大きいものでした。


いかがでしたでしょうか。

意外なところ、重要性の違いなど、多様な羊毛の姿を感じていただけましたでしょうか。

現代でも羊毛は、スーツなどの衣類、断熱材としての建材、日常を楽しむ小物素材など、多岐に渡って人の暮らしに恵みを分けてくれています。

今流行りのサウナでかぶる「サウナハット」も羊毛からできているものがありますよ^^

次回はそんな羊毛の多能な特性、「羊毛の7つの機能」からお届けしたいと思います。



[参考書籍]

サリー・クルサード「羊の人類史」 青土社2020

島村楽器公式ブログ2010.6.28「ピアノ再生物語」


2021/04/26

毎月11日更新

はじめまして。

これから約1年間、このひつじコラムを担当いたします、日本羊毛フェルト協会認定作家の嶋浦顕嶺と申します。

屋号は『Ovis Lamp』と冠して、羊毛で照明を製作しております。

さてこのひつじコラム、どのように書いてお伝えしていこうかと思っているのですが、

私はまだ羊と関わり始めて2年程の新参者ですので、

その中で体感した素直で新鮮な感覚をお伝えするところから、始められたらと思っております。

私は羊毛という素材を用いた作品製作から羊との関わりを持ち始めたのですが、

この日本羊毛フェルト協会でも学ぶ「『羊』とはどんな生き物か」という歴史の上流源流を知っていくと、

人と羊のお付き合いがこんなにも長く密接なものだったのか!と驚きを覚えます。

羊と人は、聖書にも登場するような古く長い歴史があり、その始まりは1万年以上前とも言われています。

最初は野生の羊を狩猟で獲っていたことかと思われますが、

羊に備わっていた性質から、ほどなく人は家畜として羊から恵みをいただくようになっていきます。

例えばその毛は、時に民衆の靴の中敷きになったり、軍隊のベレー帽になったり、はたまた遊牧民のテントや絨毯になったりと。

世界の歴史の時々で、それぞれの土地で、人は羊からの恵みを活用させてもらってきました。

それはいわば、伝統的な文化ではないかとも感じるのです。

その文化をいま現代に、伝わってきた歴史の一端に、関わり触れるこの羊との世界。

それはとてもおもしろく、興味深く。

過去の流れとこれからの未来に、様々な可能性が広がっていくような想いを

今日もこんこんと抱いています。


来月は「こんなものにも羊毛が(仮)」をお届けします。 

嶋浦顕嶺(しまうらあきお)

文系大学卒業後、インテリア会社に就職。約9年物流・店舗管理業務に従事。その後埼玉県飯能市にある照明工房に入社。

約2年間LEDを中心とした照明電工、木工を学ぶ。2019年独立し、Ovis Lampを設立。

URL  https://www.ovislamp.jp