コラム

羊毛の難燃性

2022/8月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

当協会では毎月1回、勉強会を開催して交流や技術の学びを行っているのですが、

世の中の状況の影響もあり、定期的に集まったり情報交換したりすることができることの大切さをより一層感じています。

無理なく、ゆるく、でも真剣に!そんなことが自然体でできることがとても楽しいですね。

さて、今月の羊をめぐる旅コラムのテーマは「羊毛の難燃性」です。

夏休みの時期らしく、実験映像も交えながら進めてまいります!

みなさん、「羊毛は燃えにくい」ということを、ご存知でしょうか?

あの柔らかいふわふわしたものが、実は難燃繊維に属するものであることをあまり想像できないかもしれません。

実はこれまでにも羊毛は、燃えては困るものや場所で活用されてきています。

例えば、飛行機のカーペット。上空の機内で万が一火災が発生し、燃え広がったら一大事。

このカーペットの素材のひとつにウールが使われていたり、消防士の服の一部にも使用されていたりします。(より機能を高めるために加工[Zirpro加工]が施されてたりもします)

また、江戸時代の火消しの親方の服がウール製であったという記述もあり、その難燃性が活かされ、広く利用されているのが羊毛です。

■ https://youtu.be/H4T-Sb7YNLw ■

これは羊毛の燃焼実験の光景です。

耐熱容器に羊毛を置き、ガスバーナーであぶっています。

すると表面が焦げたり小さく火が立ったりしますが、自然鎮火・手で扇いだだけで消火しました。表面より下や裏側は見る限りあまり影響がなさそうです。

文章では「燃えにくい!」と見聞きしていたものの、実際に実験してみると驚きはひとしおです。

あらためて、体感することはとても大切だと実感しました。

この現象の要因は、羊毛に含まれる「窒素」と「水分量」です。

「窒素」は燃焼を止める作用があり、その含有量が高いので燃え続きにくいのです。

また「水」は、最も安全な防炎剤と言われています。

そんな二つの成分を高い比率で持ち合わせているから、羊毛は難燃繊維とされているのです。

ちなみにOvis Lampの羊毛照明のシェードも羊毛100%ですが、この難燃性とLEDの熱処理性を活かし製作しています。

羊毛が焼けるときには、人間の髪の毛が焼けるにおい(アイロンコテなどで焦がしたことはありませんか!?)だったり、

革製品を焦がしたときと似たようなにおいがします。

これは、人の髪の毛と同じ成分が含まれていたり、羊毛が皮膚から変化していったものという成り立ちを考えるとうなづけることでした。

今月は羊毛の「難燃性」についてご紹介してまいりました。

あまり一般的には知られていない機能ですが、じつは工業的にはその性能はお墨付きであるこの難燃性。

羊毛を見る目も、少し変わってくるかもしれませんね。

参考図書:「羊毛の構造と物性」 日本羊毛産業協会 編集 繊維社 2015年

実験映像:Ovis Lamp提供


羊毛フェルトの魅力と可能性を振り返る!

2022年7月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺です。

ここ埼玉は、思いがけず早々に夏の日差しが到来してしまいました。

全国各地の羊は、この暑さをどう感じているのだろう。あのもふもふさんたちに、機会があればその胸の内を聞いてみたくなるような気温になっています。

みなさんもどうぞご自愛ください。

さて、今月のひつじをめぐる旅コラムは、「あらためて!羊毛フェルトの魅力と可能性を振り返る!」と題してお届けしていきたいと思います。

わたしが羊毛を扱いだして3年と5カ月。

先人の方にしてみるとほんの序の口ですが、そんな中でも日々触れ合うことで感じる「羊毛フェルトの魅力と可能性」があります。

そんなフェルターの入り口にいる今のわたしから見える魅力や可能性とはなんなのか。

あらためて言葉にすることで、羊毛フェルトの理解を深めていきます。

①大きな道具が要らず、自宅の一室から始められる

世の中には様々なハンドメイドがありますが、羊毛フェルトはテーブルスペースだけで始めることができます。

これはものづくりを始めるうえで、とても有難いメリットです。

大きな電気工具や高価な専門器具も初めは必要ありません。(あると便利な道具はありますが)

最低限、水と洗剤、あるいはニードル、そして羊毛があれば作品をつくっていける手軽さは、

羊毛フェルトで作品をつくる大きな魅力のひとつだと感じています。

②自由度が高く、楽しみの幅が広い

羊毛フェルトの作品づくりは、とても自由度高く製作することができます。

縮絨した際の、羊毛の形状記憶性質を活かせるフォルムの成形や、化学染料にも天然染料にも染まる羊毛の染色性、

そして多種多様な羊の種類からなる様々な質感の原毛。

各々の好みや作風に合わせた組み合わせは、まさに千差万別の表現ができるでしょう。

形つくりの楽しみと、色遊びの楽しみ、そして手触りの楽しみを一度に体感できる。

羊毛フェルトの自由度と楽しみの幅広さは、それぞれの人がもつ想いを表現しうる、可能性が詰まっています。

③遥か紀元前から残ってきたとされる「伝統的な」技法素材であること

以前のコラムでもご紹介しましたが、羊毛フェルトの歴史は古く、その成り立ちは聖書にも記述があるほどです。

世界各地で、ときには衣類に、ときには住居に、様々な場所でつくられ使われてきた羊毛フェルト。

世界と比べると、日本では触れ合う歴史は多くはありませんが、輸入を通じて、文化財や火消の上着としてなどが生活の中に取り入れられてきました。

羊毛フェルトが特別な薬品や加工原料を必要とせず、暮らしの中にあるもので製作できる素材である。そのことも世界中の民衆の中で継承されてきた理由であり、今後の循環を必要とする世界でも活躍していく可能性を感じます。

④老若男女、国内国外と繋がる可能性がある

誰でもどこでも手にして扱えるような素材であることから、小さな子どもからご年配の方、ものづくりが得意な方から苦手な方も、それぞれに応じた品をつくっていけるのが羊毛フェルトです。

そして「自分にもできた!」という感覚を味わっていけるのも、自分や仲間とつながる大切な要素。その感覚にときには言語は必要ありません。

他国の品や技法をみて学び、羊毛フェルトを介して会話ができるようなひととき。羊毛フェルトという長い歴史の中育まれてきたものだからこそ、わかりあえるものがあるのではないでしょうか。

今月はあらためて、羊毛フェルトの魅力と可能性について振り返ってみました。

羊毛フェルトの歴史の営みを感じながら、新たなアイデアを吹き込んでいく楽しみを、

今あるその部屋から始めてみませんか。

フェルト仲間、いつでも大歓迎!いつかみなさんとお話できることを楽しみにしています。

糸車体験 最終回

2022/6月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、

Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうらあきお)です。

ここ埼玉では、窓から見える山の木々はしっかりとした緑色を帯び、

世界を洗い流すような雨も降るようになりました。

朝晩の涼しい風を浴びられるこの季節は、花粉も少なく暑さもほどよく、

自然環境が穏やかでとても安心して過ごせることを感じています。

さて、今月は糸車体験の最終回です。

使用しているニュージーランドのAshford足踏み糸車。

この丸みを帯びた装飾が、車輪・ボビン受けなど各所に施された美しさは、

日本のものにはあまりない感覚だと、メイドインジャパンの道具で糸をつむぐ作家さんは口にします。

丁寧に整えられた表面は、2歳児がどこでも安心して触れることができる仕上がり。

その子にちょっと使い方を見せるだけで動作を理解できる構造のシンプルさ。

そんな道具を今回も使っていきます。

撚りをかける仕組みが判明したので、いざ糸を紡いでいこうと、

椅子を置き、糸車の前に腰を下ろします。

スライバー状になった羊毛を、巻き取るためにボビンに繋がるたこ糸に括り付け、

右足で足踏みをしていきます。

足踏みでまわる車輪を回転させることによって、

撚りがかかり、ボビンの方に羊毛が巻き取られて、糸になっていきます。

その光景は感動的でした。

羊の体毛として生えていた羊毛が、

刈られ、洗われ、ゴミを取り、ようやく辿り着いた加工の瞬間です。

この糸が、手袋やセーター、人を守る衣類になったり、

部屋を彩る装飾品になったりしていきます。

その始まりを、この手の内で生み出せているという感覚の中に、

人の知恵と、幸せになろうという愛情を感じていました。

それはこの手仕事が、まだお金を得る前の、物々交換される前の、

家族の為、大切な人の為に使われる行為であったときの、

根源的な感覚に触れたのかもしれません。

まだあまり持ち合わせていないですが、

ここから生活のなかで使える品にまで加工できる技術を身につけたならば、

なにか大切な巡りの中で暮らしていけそうな気がしています。

実際の糸車の操作としては、やっぱり練習が必要だと思わされるものでした。

ひとつに、右足を踏んで車輪を回転させながら、手でボビンへの巻き取らせ具合を調整する、という異なった動きが生じること。

足踏みに気を使い過ぎると、巻き取らせる手がおろそかになり、撚りをかけ過ぎてしまいました。

また反対に手に意識を使い過ぎると、足踏みの回転がいつの間にか止まってしまい、撚りのかかり具合が変わってきてしまうのです。

巻き取らせが遅れることで回転が多くなりすぎ、撚りが硬く細い糸になってしまう。

かと思えば巻き取らせが早すぎて、ゆるゆるな糸ができてしまう。

初めてできた糸は、細かったり太かったり玉があったり、がたがたしたものになっていました。

一定の太さや硬さの糸を均一につくるという作業は、やっぱり練習と想いがこもったものだったのだなと

身をもって実感することになりました。

ただそれと同時に、そこからつながっていった先の豊かさを感じられたことも事実です。

この世界の、宇宙のほんの片隅で行う、糸を紡ぐということ。

そこにはひとつの行動と、すべての可能性が詰まっているのかもしれないと、

いま言葉を綴りながら感じています。

糸車体験紀

2022年5月

こんにちは!日本羊毛フェルト協会認定作家Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうらあきお)です。

暑くなったり梅雨のような気候になったり、季節の変化をよく感じることが増えましたね。

窓から望む山の木々も、新緑の若葉の淡い色味から濃い夏の緑へと少しずつ変化していっています。

さて今月は前回に続き、「羊毛を糸にする糸車」の体験記を書き綴っていきます。

前月は糸車を使うにあたってのお手入れについてお話しましたが、今月は実際に糸車を使用した「みんなで糸車練習会」の様子です。

せっかくお迎えした道具ですから、自分だけで使うのはもったいない!と思い、

不定期にアトリエを開放して「糸車体験」をさせていただいています。

その第一回目として、染め物作家さんとテキスタイルデザインを行う方とともに練習をしてみました。

みんな初めて触る糸車。

道具の仕組みも自分の身体の動かし方もわかりません。

まずは道具を触って眺め、

「ここを踏むと車輪が回るのか」「え、どこに羊毛を絡めるの?」「おぉー動いた動いた!」と、

羊毛を紡ぐ前にわいわい調べていきます。

木の滑らかな質感。

日本の道具にはない装飾。

仕組みの想像。

みなさん作り手の方だったので、道具への興味も高く、紡ぐ前からあれやこれやの賑わいに。

大人になっても子どもみたいに、無邪気に遊ぶような感覚。大切だなぁと感じました。

みんなで順に糸車の足ぶみを踏み、車輪の回転を回してみます。

踏めばぐんぐん回る糸車。回転する音や踏み込む足の感触を感じながら、

わー、これはどんどん糸が紡げちゃうね!なーんて、悠々と話しておりましたが、ここから技術の必要性に翻弄されていきます。

羊毛を糸車の左側にある回転するボビン部分に引き込み、Youtubeで紹介されている使い方動画を確認しながら、

いざ!足ぶみ踏んで糸紡ぎ!と動かしてみたら、なんと糸に撚りがかかりません。

車輪がどれだけ回っても、ボビン部分が回っても、一向にかからない羊毛への撚り。

なぜだ、なぜなんだ。

さっそく現れた課題。

いきなり作業ストップです。

1台の糸車に向かい合い、代わるがわる使い方を試していきます。20分くらいは3人で動画を見直したり、再トライしてみたりしていたでしょう。

そしてついに問題点を発見!

なんと、車輪の回転が逆だったのです。

後から知ったことですが、糸車は単糸を撚るための回転方向と双糸を撚るための回転方向があったようで、

わたしたちは初めは双糸方向の回転を加えていたのです。

えぇーーそんなところ!?と気づけばあっけにとられるのですが、この発見を積み重ねていけるところがものづくりの楽しいところ。

できることが増えていく。小さいながらも自己肯定感も高まるところです。

さぁ、これで糸がずんずん紡げるね!と意気込んで、羊毛を絡めて撚りをかけていくと、

ぶちっ…

あっという間に羊毛が千切れてしまったのです。

なぜだ…なぜなんだーー

一難去ってまた一難。

あちゃーと顔を合わせながら

むずかしくも楽しい糸紡ぎが続きます。

羊毛を糸にする道具「糸車」

2022年4月

こんにちは!日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうらあきお)です。

このコラム「ひつじをめぐる旅」は、今月号で2年目に入ります。

「羊」をテーマに、歴史や漢字、制作道具など、いろんな角度から羊を知っていってみようというのが、このコラムです。

いつもお読みくださっているみなさま、今回はじめてお読みくださったみなさま。

またこの1年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今月は羊毛を糸にする道具「糸車」についてです。

みなさん「糸車」という道具はご存じでしょうか?


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知っているけど触ったことはない方や、日々使っていますという方も

いらっしゃるのではないかと思われるこの糸車。

先日、わたしのアトリエもお譲りいただいたものが鎮座しました。

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実物を見たことも使ったこともなかったわたしですから、

さてさて、どうしたらいいのか検討がつきませんでした。

しかしよくはわからなくてもこれは道具。

「まずは分解清掃して、構造を理解しよう!」

というところから、糸車とのお付き合いを始めました。

メーカーであるAshford(アシュフォード。糸紡ぎやカーダーなどの道具を製造している1934年創業のニュージーランドの会社)のページから、

取り扱い説明書をダウンロードして、まずは分解していきます。

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説明書を逆から読みながら分解すると、動く仕組みやメンテナンスが要りそうなところがわかってきます。

足踏みの動きで車輪につながるゴムが引っ張られ、回っていきます。

メンテナンスとして、回転の速いところにはグリスを、足踏みの軸には蝋を塗ってと書いてありました。

こういった回転系の道具では、日々のグリスメンテナンスがとても大切になってきます。

それは、摩擦によって、本体が摩耗してしまうことを防ぐためです。本体の金属部分や木部分を修復することは難しく、特に木部分は削れてしまうと穴が広がってスカスカになってしまい、正確な動作ができなくなってしまいます。

過去に工房で働いていた際、「道具は自分の手足。道具があるから仕事ができる」という考えのもと、やはり使い始めと使い終わりのメンテナンスは大事にしていました。

ときには作業を止め、しっかりと向き合うことも大切です。

そうして分解をし、グリスの塗り直し。各パーツを少し濡れた布で拭き汚れを落とし、乾拭きでホコリを取り除いていきます。

さらに木の乾燥を防ぐため天然油を薄く塗り、オイル仕上げを施していきます。木は製材されても呼吸をする素材です。湿気や乾燥で傷みや歪みが起きる可能性は0ではないので、天然素材ならではの日々のお付き合いがここにはあります。

そうやって各パーツのメンテナンスと掃除が完了したら、いよいよ組み立て直します。

今度は説明書を順番通りに組み立てていくと、新たに生まれ変わったような気持ちになっていきます。

手をかける余地があるということは、こういう豊かさも感じさせてくれます。

ガタガタしていた本体はしっかりと立ち、はじめはやや動きが鈍かったら車輪の回転も、スムーズに音も小さくなりました。

オイル仕上げをした油の匂いが少し残る木の表面も、艶やかにしっとりとした雰囲気に変わり、なんだか高級感が増したような気になります。

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こうやって道具と向き合う時間は、時間がかかると思われがちですが、取り組んでみるとそれ以上の経験が得られます。

構造を理解すること、整備ができること、素材を知ること、愛着が湧くこと。

ぜひみなさんも身の回りにある道具と、少しだけ向き合ってみてはいかがでしょうか。

次回は実際に糸車を使ってみた「みんなで糸車練習会」の様子をお届けします。 

画像1

画像はashford webサイトより https://www.ashford.co.nz/)

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鎮座した糸車




画像3   分懐中!




画像4オイル仕上げ

羊とわたしたち

2022年3月

こんにちは!日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(しまうら あきお)です。

昨年4月から掲載してきたこのコラム「ひつじをめぐる旅」も、今月で丸1年となります。

羊が関わるいろいろな面を、ひとつずつお届けしてまいりました。

羊の多様性、歴史、文化、そして羊の彼らについて。それぞれの入り口を感じていただけていたら幸いです。

この場を借りて、応援くださったすべての方へ感謝申し上げます。

引き続き、2年目もよろしくお願いいたします。

今月は、これまで体感してきた羊とわたしたちについて、綴っていきたいと思います。

遥かむかし、カモシカを祖として進化してきた羊。

それぞれの環境に適応し、自然のなかでの生を生きていたのだろうと想い描きます。

その営みの中で、ヒトは羊と出逢い、1万年前から羊の恩恵を受けるようになりました。

モンゴルの遊牧民の羊への対応をみると、それがいかに命と命のやりとりであったかを思い知らされます。生かされ、想い、感謝する。その謙虚な姿勢が表現されています。

ヒトはその飢え、寒暖、大地からの痛みを、肉や、毛や、ぬくもりをもって、羊から享受してきました。世界に広がる大きな宗教に、羊を禁ずるものが少ないことも、ヒトがどれだけこの命を支えてもらってきたかを想像させます。

また一方で、ヒトは羊に価値をつけ、自らの暮らしを余りあるものにするために利用してきました。

資源としてではなく、資産としての羊のやりとり。大航海時代、かつてのスペインがメリノ種を囲み、財を築いたように。各国がそれに応じ品種改良をすすめたように。ヒトは羊のエネルギーをつかってきたのです。

羊毛もその流れの中で、品質・抜毛具合・適応性を考慮し選抜されてきました。

過去を変えることはできませんが、今、わたしたちの目の前にあるものを味わい考えることができます。

多くの羊の毛は、自然と生え代わるものではありません。それはヒトによって為されたことですが、毎年刈り、羊の身体を守り、ヒトは羊毛を得ます。

互いの生を共有しつつ、羊から毛という享受を受けられ、それによってヒトの暮らしが豊かになること。

傷つけあったり、命を削り合ったりするのではなく、双方の命を支え合うことができる関係性。このコラムの執筆を通じて、わたしはここに羊毛の魅力と豊かさを感じています。

どうかこの循環がやさしく、傷つけず、命を支え合うものでありますように。

そう願っています。

これを書いている2日前。ロシアによるウクライナへの”侵攻”というニュースが世界を覆いました。

ただ、情報はいつでも断片でしかありません。たとえ現地で体感したとしても、それはやはり断片でしかないでしょう。

その断片の中になにを見い出し、自分の中になにを感じるのか。そしてそれを表現することで、また自分に落とし込んでいきます。

現象は異なりますが、願いは同じです。

すべてのことが、やさしく循環し、傷つけず、命を支え合うものでありますように。

嶋浦 顕嶺 

羊毛とアンティーク

2022年2月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦です。

早くも2022年も2月となりましたが、

みなさま今年はどのように感じておられますか?

わたしは今年より埼玉県の狭山市にアトリエをオープンし、

そこでの過ごし方を日々味わうことを大事に感じています。

みなさまの想い描く時間が過ごせていくことを願っています。

さて、そんな時の流れを感じる今月のテーマは

「羊毛とアンティーク」です。

「アンティーク」とは、元々ラテン語で「古い」という意味を表す「アンティクウス」で、

フランス語として変化していく過程で「骨董」や「古美術」といった意味合いを

帯びるようになっていったといいます。

その定義はきっちりと定まっているものではなく、それぞれのニュアンスで使用されているところがある言葉です。

1993年、ロシアの考古学者ナタリア・ポロマスクは、シベリアの険しいアルタイ山脈にある巨大な古墳があります。

そこで「アイス・メイデン(氷の乙女)」と呼ばれた地位の高い女性の墓から、フェルトでつくられた長さ3フィート(約0.9メートル)の頭飾りが、驚くほど良好な状態で発見されたという。

ここに住み着いた方々にとって、羊毛がいかに重要なものであったかを物語っています。

[参考図書:「羊の人類史 サリ・クルサード著 青土社 P22]

羊毛のアンティークというと、想像にあがるものが「敷物」です。

日本では奈良の正倉院に保存されている「花氈」に羊毛が用いられており、その歴史的な価値が認知されております。

参考資料:正倉院の花氈に関する報告 ー本出ますみー

     https://shosoin.kunaicho.go.jp/api/bulletins/42/pdf/0421001040

     https://shosoin.kunaicho.go.jp/api/bulletins/42/pdf/0422041064

またギャッベ、タブリーズ、バルーチ、キリムなど、中東の遊牧民の方々がつくられたものも広く知られており、ウールや綿を天然染めしてつくられているものが多くあります。

参考サイト:https://carpetavenue.jp/

遊牧民たちは、生活をともにする羊たちの毛を用い、

その移動のあいまに組み立て式の織機をつかって、生活のための道具をこしらえていました。

テント、馬具、荷物を運ぶための袋、絨毯などさまざまです。

そしてそれらは、暮らしのため、家族のためにつくられているものも多くありました。

部族の方が家族用につくられたキリム絨毯をみたとき、つくられる手間、模様に込められた願い、実用性など、つくる人、使う人に対する気持ちを感じることができました。

そこには商売ではない、家族の生に対する愛と祈りが織り込まれているように思います。

そんな感情を感じさせてくれる「アンティーク」と呼ばれる羊毛の品々。

羊の毛は時を越え、大切なことを伝えてくれます。

遥か昔の人々が、目の前の大切なもののためにこの羊毛をつかったように、

わたしたちも目の前にいる大切なものことのために、

ひと手間ひと手間、想いを込めていきたいものです。

きっとそれは100年経ったあとにも、受け継がれていくものではないでしょうか。 

道具・ニードルについて

2022年1月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(あきお)です。

2022年が始まりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、今月は羊毛にまつわる「道具」のお話をさせていただきます。

羊毛の道具というと、どんなものを思い浮かべますでしょうか?

羊毛人形をつくる「ニードル」、羊毛を糸にする「スピンドル」「紡ぎ車」、羊毛をほぐして綺麗にする「カーダー」。

その他にも織り機や細かな道具がたくさんありますね。

その中から今日は、使う方が多い「ニードル」についてご紹介してまいります。

寒さ厳しい冬のおこもり生活のなか、

いつもより少し道具のことを知って、

こんな道具を使うとこんなことができるんだ!という想像を描いていただけると幸いです*

ニードルやフェルティングニードルといった名称で販売されているこの道具。

その歴史は、元々はイギリスの不織布を作る会社の機械の一部で、

そこから1本だけ取り出して造形を始めた…と言われています。(その人物はわかっていません)

ちなみに日本で、羊毛フェルトの本に初めて登場したのは2002年頃。20年前とかなり最近になっての手法なのです。

そんなニードルには

大きく分けると以下の種類の違いがあります。

①針の太さ

メーカーによって「太針、中針、極細」といったさまざまな種類が製造されてます。

各社「極細」と言っても、それぞれ太さが違っていて、例えば協会で「まとめ用」として使っているものは実は他社の「極細」だったりします。

なので、まずは使ってみて指の感覚で自分で羊毛のフェルト化に伴って使いやすいニードルを探していくことも大切かと思います。

太針は、大きな作品や力が加わりやすい土台などに適しており、硬いパーツを製作したいときに役立ちます。

反対に極細タイプは刺し跡が目立ちにくく、表面の仕上げや細かい造作を施す際に役立ちます。

これを使い分けていくと、作業性も仕上がりも増してきます。

②返し(バーブ)

ニードルの先端には「返し(以下バーブ)」という金属の反り返り部分が施されています。

この細かいバーブに羊毛の繊維が引っかかり、刺し引きすることで羊毛が絡まり、どんどん密度が上がって固くなっていく仕組みです。

またこのバーブには、「上向きタイプ」と「下向きタイプ」があります。

「刺して引いたときに繊維を絡めてくるか、差し込んだときに繊維を絡め押し込んでいくか」という動きの違いがでてくるものです。

一般的なものは「下向きタイプ」の押し込み固める。じゃあ上向きは?

上向きは繊維を「引き抜き」ます。つまり繊維を引き抜き「ふわっとした質感」を出したいときに活用されます。

いわゆる動物の毛並みを表現する際の「植毛」という技法とともに、毛の表現として使われています。

③バーブの位置

上記の繊維を引っ掛けるためのバーブですが、「1本あたりの数とその位置」にも違いがあります。

針の先端にたくさん集まっているタイプは、浅く刺してもよく絡みます。

厚みのないパーツ(裏側にまで突き通すと穴が目立つ場合がある)、表面を綺麗にしたいときにおすすめです。

反対により一般的なバーブの位置が広がっているものは、通常時に使用することが多く、

厚みのあるものを刺したりするなどに適しています。

(引用:クロバー株式会社HP)

https://www.clover.co.jp/seihin/felt.html

今月は近年広く知られるようになりました「ニードル」という道具について、

少し踏みこんでご紹介してまいりました。

これらの違いを理解しながら道具を使っていくことで、よりやりやすく、より仕上げ良くしていけるかと思います!

ぜひ購入の際には、各メーカーさんや販売店さんの「仕様詳細」など、注目してみてください。

ちなみに、無理な力が入らないように、

「ニードルは人差し指と親指の2本で持つ」のが、日本羊毛フェルト協会流のニードルの持ち方です★

そんなことも思い出していただきながら、

どうぞ冬のおこもりワークをお楽しみください^^

羊の種類

2021年12月

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

今年はなんだか冷え込みが早いように感じております。みなさまの周りはいかがでしょうか?

足元や首回りなど、「三首」の保温を意識していきたいところです。

さて、今月のコラムは「羊の種類」についてお届けします。

羊は、おそらくみなさんがご想像しているよりかなり多くの種類が存在しているかと思います。(わたしも初めて聞いた時は驚きました)

いったいどのくらいの種類がいると思いますか??

...

その数は世界で3000種もの羊が確認されているという説があり、

国連食糧機関に登録されている羊でも、1229種類います!

3000種の羊たち。

顔つき、毛並み、角の有無…どうでしょうか、その違いを想像できますでしょうか??

以前にもご紹介したように、羊と人の関わりは約1年前からと言われ、

家畜化は8000年前の北イラクから始まったとされます。

この長きにわたる関わりの中で、様々な品種改良が行われてきたことも要因のひとつでしょう。

ここからはいろんな特徴をもつ、多様な羊たちをいくつかご紹介していきます!

顔立ちや羊毛のかんじなど、ほんとうに様々なのです!

<羊の祖先「アンテロープ」>

1500万年〜700万年前の中新世紀に、ヨーロッパやインドに分布していたカモシカのアンテロープが羊の祖先と言われています。

<なめらかな毛質が特徴「メリノ種」>

スペインで品種改良された品種。羊毛の中では最も細い毛のひとつで、ウール産業においてメリノは最重要品種と言われています。湿気に弱く放牧に適していることから、日本での飼育はなかなか定着しませんでした。

<世界各地で飼育されてる「コリデール」>

19世紀にニュージーランドで品種改良された品種。良質の毛と肉質が良い毛肉兼用の羊です。フェルト化しやすく、立体的な造形に向いています。

<フィンランドの在来種「フィンシープ」>

嶋浦がフィンランドに旅行にいく際に、「あっちにも羊がいるのでは!?」と調べて知ったフィンランド在来の品種。シュッとした顔立ちとスマートな体つきが綺麗だなーと感じた羊です。

<重厚な見た目「ハードウィック」>

イギリス品種のなかで最も古い品種のひとつとされており、原種に近いと言われています。短く見える脚にがっしりとした体格は、重厚さと愛嬌が合わさったようなかわいらしさを感じます。

ピーターラビットの著者が保護・飼育に注力したことでも知られています。

<これも羊!?「ウェンズデリーデール」>

イギリスの品種。30cmにもなるクルクルとカールした光沢のある長毛が特徴です。

イギリスはスペインメリノに対するように、様々な羊を品種改良しています。

いかがでしたでしょうか。

羊の適応性の高さと人の願望が相まって、世界にはこんなにも多種多様な羊が存在しています。

ちなみに日常的に手に入る羊毛は30種類ほどでしょうか。まだまだ見たことも触れたこともない羊が世界にはたくさんいるようです。

みなさんもお気に入りの羊!を見つけてみてはいかがでしょうか*

たくさんの羊が載っているページをシェアしまして、今月のコラムはここまでにいたします。

今月もありがとうございます。

http://bib.ge/sheep/sheep_breeds.php?lang=japanese

[参考図書]

「羊毛の構造と物性」日本羊毛繊維協会 編 繊維社 2004年

「ヒツジの科学」田中智夫 編 朝倉書店 2015年

「羊の本」 本出ますみ 著 スピナッツ出版 2018

(社)日本羊毛フェルト協会 講座テキスト

【羊毛】

2021年11月

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺です。

春から始めたこのコラムも、寒さを感じる季節まできました。

夏のさらっと使いの羊毛アイテムもしかりですが、冬のぬくぬくアイテムが恋しい時季になりました。

そこで今日は、そんな羊毛のぬくぬくの秘密について、あらためてご紹介していきたいと思います。

羊毛。

それは自然から命を守る役目をおった重要な生き物の一部です。

そもそも羊毛とは、

羊の身体を自然環境から守るため、その機能を果たしています。

雨が降るときもあれば、暑さが降り注ぐこともありますね。

その変化から命を守る機能を担っているのが、羊毛なのです。

その仕組みの秘密はなんなのでしょうか。

<羊毛のぬくぬくの秘密① ー水をたくさん含めるよー>

羊毛は、多くの湿気を取り込むことができます。

その吸湿率は、標準の状態で綿の約2倍。ポリエステルの約20倍といわれています。

そうすると肌表面が蒸れずに、汗冷えを抑えて、サラッとする。そんな効果がでてきます。

また一方で、

水が繊維に吸い着くと、熱が発生するという作用があります。

(ヒートテックはこの作用をバランスよく利用した製品です)

羊毛繊維自体が内部に含める水分の割合は「33%」と、

繊維の中ではとくに多くの水分を含むことができます。

つまり、「多くの水分を吸いつかせることができる」ということになります。

ここで「水」を「汗」に置き換えて考えてみましょう。

羊の身体から出る汗や水蒸気。

これが肌に近い羊毛に吸い着き、熱を出しているのです。

自分の出したもので、自分を守る熱を出す仕組み。

これが備わっているのが羊毛の特徴です。


<羊毛のぬくぬくの秘密② ー空気をたくさん含めるよー>

空気って、とても高い断熱性があるものなのです。

金属と比較すると、1万倍熱が伝わりにくいともいわれています。

そんな高い断熱性のある空気を、羊毛はたくさん含むことができるのです。

「空気を含むとはどういうこと??」

それは羊毛のちぢれ(捲縮・クリンプ)の影響です。

羊毛の繊維を眺めてみると、クルクルと曲がっていませんか?

あの構造です。

この細かいちぢれの役割で、空気をたくさん繊維に纏わせることができるのです!

「高性能な断熱材が、繊維にたくさんまとわりついている」

そんなちぢれが冷たい外気とのバリアになり、

結果内部(羊からしたら身体の)の熱が覆い守られるのです。

このように「熱を生む水」と「熱を守る空気」を含みやすいというダブル効果もあって、

羊毛のぬくぬくは保たれているのです。

今回は寒さを感じる時季ということもあり、

あらためて羊毛のぬくぬくについて紐解いてみました。

冷えは健康の大敵!

帽子、マフラー、肌着など、

羊毛をお肌に近づけて、ぬくぬくした冬のライフを楽しんでみてはいかがでしょうか。

[参考図書]

「羊毛の構造と物性」日本羊毛繊維協会 編 繊維社 2004年

「ヒツジの科学」田中智夫 編 朝倉書店 2015年

「羊の本」 本出ますみ 著 スピナッツ出版 2018

【羊毛と加工】

2021年10月

こんにちは。日本羊毛フェルト協会認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺です。

残暑も薄れて秋の心地よい空気を感じる季節になりましたね。

わたしはこの季節がとても好きで、

こんな日は空の雲を形をぼんやり眺めるのが好みの時間です。

(花粉症に苛まれることもない穏やかな日々!)

さて、本日のコラム「ひつじをめぐる旅」のテーマは、

「羊毛と加工」と題してお送りします。

羊毛はその特性を活かして、昔からの様々な加工が施され、

人々の暮らしを助けてきてくれました。

羊たちの恵みと人々の知恵をかけ合わせていくと、

まだまだ新しいものが生まれる可能性を秘めている。

そんな加工方法の一部をご紹介します。

<縮絨させる>

代表的な加工方法です。「しゅくじゅう」と読みます。こちらは、

「水分とアルカリ成分(石鹸とか)と摩擦で、羊毛がぎゅぎゅっと絡んで密になって固くなる」

という性質を使った方法です。

コースターや服、鞄やテントといったものが作れます。

羊毛の種類によって風合いがまったく変わってくるところが、羊毛loverたちには沼で愛らしいところ。

家庭にある道具(お湯、洗剤、手)でできるので、比較的かんたんにチャレンジできるのがありがたい方法です!

<ニードルを使う>

今や色んなところで見るようになりました羊毛の人形やアクセサリー。

これを作るには「ニードル」という道具を使用しています。

ニードルには様々な用途に対応した種類もあり、

広い範囲のためのもの、表面を滑らかに仕上げるためのものなど、

使い分けることによって精度や楽さが変わってきます。

プロの方だとお気に入りのメーカーがあるようなので、

色々使い分けてみるのもお楽しみポイントだと思います!(道具好き観点)

<染める>

羊毛の染めには様々な方法があります。

化学染料を使った化学染め、植物染料を使った植物染め。

また藍染や土顔料のベンガラ染めなども可能です。

動物性の繊維ということもあり、応用の幅が広いのが特徴です。

道具が必要なものもありますが、自宅の台所でもできる染めもあります。

わたしとしては染めの方法は、色が染まると偶然性や意外性も見れて、「おぉぉ…こんなふうになるのか!」と声がもれます…

世界が一変するようなこの方法、とても楽しいです!

(材料参考サイト)

植物染め…

三木染料店

天然染料 - 紡ぎ車と世界の原毛アナンダ

藍染…

 田中直染料店

ベンガラ染め…

古色の美


他にも代表的な方法には、「紡いで糸にする」「織る」「違う種類や色の毛を混ぜる」といったものもあります。

1つの手法だけでなく違う手法をかけ合わせたり、違う素材(ガラスや光などなど)と合わせることで、

まだまだ新しいものがたくさん生まれてきます!

ぜひ自宅で手軽に試せる、羊毛のものづくりをお楽しみください☆

実体験!マンクスロフタンの毛刈りから

2021年09月

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会 認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

このコラムは4月にはじまり、「プロローグ」「こんなものにも羊毛が」「羊毛の7不思議を知ってほしい!」「羊毛は呼吸する」「羊と漢字」と、いろんな角度から羊についてご紹介しています。

(過去記事は下にスクロール↓)

羊のことをあまり知らない方が、どんな特性・歴史があるのだろうと好奇心を持っていただいたり、

羊ってこんな一面もあるんだと深めていただけたらと思いながら、文を書いています。

関心を抱いてくださる方が増えて、ひともひつじも、より豊かなを暮らしが送れることを一個人ながら願っております。

さて、今月のテーマは「実体験!マンクスロフタンの毛刈りから」と題しまして、

わたし自身が体験したことからご紹介をいたします。

マンクスロフタンとは、羊の品種の名前です。

故郷は英国自治島のマン島。英国では希少家畜保護トラフトの保護下にあり、

日本には1990年に保護・保存の目的から20頭がきました。

舞台は埼玉県のとある民家。ここに羊(さっちゃん)1頭を飼育しているご家族がおり、

今回はそんなマンクスロフタンとフライスランドという品種がかけ合わさった羊の毛刈りをさせていただきました!



(愛嬌のあるさっちゃん。屋根草になってるブドウの草が大好き)

力が強く、お腹が空くとゲージにガンガン頭突きをしてくるさっちゃんですが、

頭をなでても怒らないやさしい羊です。

季節はあたたかくなる5月。多くの家畜の羊ははるか昔からの品種改良により毛が自然には抜け落ちないため、

1年に1度、人の手によって毛刈りをします。

通常よくみる羊の毛刈り姿は、羊が座ったような姿勢でバリカンで刈っていきますが、

このさっちゃんは力が強く、足払いのごとく横倒しにして、角を持ってガッシリと頭を押さえつけます。

頭押さえ役、下半身押さえ役、はさみ役の3役で進めていくのですが、

これでも途中、唐突に暴れて脱出を試みてきます。

この時はさみ役は、強烈なヒヅメキックを受ける可能性が高く、

いつ炸裂するかわからない緊張感の中、カットを進めていきます。動物の身体能力の強さを痛感します。

カットの道具はモンゴル製のはさみ。切れ味が良くザクザクと切れるのですが、

羊毛についている脂(ラノリン)等で終盤には切れ味が落ちることもあるので、

必要に応じて研ぎ直しをしながら進めていきます。

はさみには和ばさみのような構造のものもありますが、切る際に握力をよく使い疲れやすいので、

この一般的な形のはさみが使いやすいとのことでした。

さっちゃん爆裂キック(!)の様子を伺いながら、

皮膚を切ってしまわないように、でも毛残りが少ないように皮膚に近いところを、慌てず切り進めていきます。

よく映像で見るような一枚毛皮のように切るのって大変なのがよくわかります。あれは、プロの技でした。

途中で立ち上がってしまったら落ち着くまで放置して、半分終わったらお昼休憩を挟んで午後また再開。

何回も起き上がってしまうと中断が増えて、1日がかりになってしまうこともあるそう。

両面頭と全て切り終わったところで、ようやくさっちゃんに食べ物を食べさせます。

先に与えてしまうと腹が圧迫され、倒した際に支障が出てしまうのだそうです。

羊も人も長時間の作業となりますが、自らも刈った羊毛にはすごくリアリティを感じました。

生きているものから刈り分けた生の羊毛。こうやって羊毛を衣食に活かしていったのかと思うと、

とても愛おしく感じて、さっちゃんに感謝の気持ちが湧いてきました。

今年もがんばってくれてありがとう。

また来年も元気によろしくね、と。

<参考文献>

レア・シープ研究会(https://rare-sheep.jp/manxloghtan/knowledge)

2021/08/11

『羊と漢字』

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会 認定作家のOvis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

早いものでこのコラムも第5回目となりました。

羊にまつわることをいろんな角度から書いていますが、

今月は「羊と漢字」をテーマに書き進めていきたいと思います。

さて、いつもあまり意識せずに見ている漢字(そんなことないよ!という方は、わたしと同じ種類ですね!)ですが、

思いのほか「羊」が関わっている漢字があることに気づきます。

漢字は一枚の絵画のように、その形や情景などを線で意味を表しているものです。

その発端は、人と羊の関わりにあるように想像します。

羊はかつて、富そのものでした。

その範囲は広く長く、大航海時代を支えた資金にもなったといわれています。

そんな世界からも伝わっていったであろう「漢字の中の羊」。

今日はそんな世界をご体感ください。

【基本の「羊」】

まずはこちら、「羊」です。

これは象形文字といって、ひつじの一部(頭や首)を表したものと言われています。

羊の面長な顔や、角の様子が伝わってきますね。

【羊は「よいもの」】

羊が含まれる漢字の中には、「よいもの」という意味合いのものがあります。

一つは「美」です。上の部分が羊の文字です。

前述しましたが、羊は富そのものであった時代があります。

「大きい羊はよいもの」という昔の人の感覚が感じられます。

他にも「善」、「祥」、「詳」なども同様の意味合いを含んでいます。

【広がりを感じる】

広大に広がる羊の光景を感じるものもあります。

「洋」という字にも羊が含まれています。

わたしはこの字をみると海を思い浮かべてしまうのですが、

「広く大きい、いっぱいに広がる」という意味合いがあるようです。

広大な草原に羊の群れ(あ、ここにも)がたくさん広がっている様子が、

海に広がる白波になぞらえられたのでしょうか。

昔の人の想像の豊かさを味わえます。

【よきものをつなぐような】

今回調べていて印象的であった漢字を最後に紹介します。

それは「繕う」です。

先にでました「善」という字に糸へんが組み合わさっています。

よきものを糸にし、その糸で家族や仲間の衣を大事に直すような…

そんな情景が浮かんできます。

すごく、愛を感じてやさしい気持ちになりました。

いかがでしたでしょうか。

他にも「養」「鮮」「羊羹(お菓子のようかん。羹の字にも羊がいる)」といったものにも含まれており、

人と羊の付き合いの深さが思い浮かばれます。

今月もお読みくださりありがとうございます*

次回は「実体験。マンクスロフタンの毛刈りから」をお届けします。


[参考文書]

漢字辞典ONLINE https://kanji.jitenon.jp/

2021/07/11

ー羊毛の7不思議 Part.2 〜「吸湿性と放湿性」より〜ー

【羊毛は呼吸する】

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(あきお)です。

7月に入り、気温も湿度もぐんぐん高まってきました。

そんなこの季節、みなさんはどんな服装を選びますか?

今では多くの機能性化学繊維の衣類がありますので、常用している方も多いと思います。

冷やっとしたり、伸び縮みしたり、快適なものが多いですね。

さて、ここでも羊毛が登場してきます。

みなさんに質問です。

「羊毛を使った衣類」と聞いて、何が思い浮かぶでしょうか?

セーター、靴下、スーツにマフラー・・・

防寒用具のイメージがあり、

なんだか今の時季には暑そうだなぁという印象はありませんか。

.

でも実は羊毛って、

とても『吸放湿性に優れている素材』なのです!

例えば汗管理が大切な山岳アイテムや下着。

また最近ではテニスのアンディー・マレー選手が、ウールユニフォームを着用してウィンブルドンに復活するというニュースが出るなど、多様なシーンで活用されています。

→ブランドメーカーHP

https://castore.com/pages/amc

→Tennis Magazine ONLINE 記事

https://tennismagazine.jp/article/detail/16381?page=1

今でも過酷な環境で使用されている羊毛。

雨をはじいても服内の熱気を吸い、さらりとした肌触りが続く。

その秘密はなんでしょうか?

それは羊毛の繊維の構造にあります。

羊毛繊維のわずか0.1%、一番表面の「エピキューティクル」という部分が疎水性(物の表面で水が薄く広がらないで水滴となるなどの性質を持つこと)を持つ以外、

残り99%以上は水が広がりやすい構造になっています!

つまり、湿気や水を溜め込める部分が多いのです。

しかもこの部分はまわりの湿度が高くなるほど、

より多くの水分を保つ性質がなります。

その保水力。羊毛は最大で約33%。ポリエステルが0.4%ほどしか吸収しないので、

比べるとその保水力の高さが際立ちます。

そうして吸われた湿気は、繊維の内部の働きでまた大気中へ発散されていきます。

(科学的で難しくなるので割愛します。気になる方はぜひ参考書籍をご覧ください*)

『汗をしっかり吸って溜めて、毛の中で水蒸気に変えて出してくれる』

吸って出す。まさに呼吸をするかのような構造です。

羊毛の衣類が快適な秘密。

それは羊毛が生きものの一部であるからこそ備わっている、

生きるための大切な機能があるからなのでした。

服やスリッパ・ストールなど、

この夏になにか1つ、羊毛の力を感じるものを身につけてみてはいかがでしょうか。

次回は国語のお勉強。『羊と漢字』をお届けします*

[参考書籍]

日本羊毛産業協会編集「羊毛の構造と物性」 繊維社 2015

田中智夫編集「ヒツジの科学」 朝倉書店 2015

2021/06/15

『突然ですが、羊毛の7不思議を知ってほしい!』

こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lampの嶋浦顕嶺(あきお)です。

今月の羊コラムは羊毛の7不思議である、「羊毛の7つの機能」をご紹介していきたいと思います!

羊毛にはその独特な毛繊維の特徴があります。

化学繊維では併せて持つことが難しい、多様な性質です。

それが次の【7つの性質】です。

1、撥水性と吸水性の両立

2、防汚性と染色性

3、吸湿性と放湿性

4、保温性

5、難燃繊維である羊毛

6、毛が絡み合うフェルト性

7、科学的な形状記憶性

ちょっと○○性が多くなってしまいました。

前半は相反するような性質があることを、後半はあまり聞き慣れない言葉が並んでいると、感じられるかもしれません。

これら7つをすべて併せ持つ、不思議な繊維が「羊毛」というものです。

今回はまず「1、撥水性と吸水性の両立」をご案内してまいります。

撥水性と吸水性。それぞれの言葉を辞書で引くと、

撥水性とは「水をはじく性質」。吸水性とは「水を吸う性質」とあります。

はじくのか吸うのかどっちなの!!ってなりそうです。

そんな羊毛とは、元々は羊の身体を覆っているもの。

雨風などの自然与件から、体温の低下や病気を避けて、身を守る必要があります。

生きのびるための、重要な第一の防護手段です。

はじくことは「入れないこと」。そして水を吸うことは「保温」などの命を維持する機能に繋がっていきます。

(繊維内部で「水がめ」のような状態になっていきます。詳細は文字数の関係で割愛します。参考書籍等をご参照ください)

それを同じ「毛」で行える能力を持つものが羊毛なのです。

みなさんの髪の毛にも「キューティクル」があります。

髪の毛を指でつまんで、先端から根元に滑らせると抵抗を感じることができるあれです。

(髪の毛のキューティクルの大きさは約1000分の1ミリ。人間の指先はこんな微細なものも感じられます。すごいですよね。)

そんなキューティクルが羊毛にもあります。4層構造になっていて、それが水(水溶性のもの)をはじいたり、水を受け入れたりする役割を果たしています。

例えば水溶性のものをはじく実験として、汚れに見立てた醤油を羊毛フェルトにかけた動画があります↓

https://youtu.be/UKQH348UlMo


想像以上に不思議なほど、スルスルと汚れが滑り落ちてしまいました。

こんな機能をもつ羊毛を、みなさんだったら何に活かしますか?

水をはじいてほしいもの。帽子やテント?

水を吸って保ってほしいもの。コースターや敷きもの?

この特徴一つとっても、活用方法が広がっていきます。

まだまだ可能性が秘められている羊毛。ぜひアイデアをお寄せくださいね。

次回は引き続き、「羊毛の7つの特徴」からピックアップしていきます。

[参考書籍]

日本羊毛産業協会編集「羊毛の構造と物性」 繊維社 2015

日本羊毛フェルト協会 作家養成コース講座資料 2019

毎月11日更新

2021/05/11


こんにちは。

日本羊毛フェルト協会認定作家、Ovis Lamp嶋浦顕嶺(あきお)です。

今月のひつじコラムは

「こんなものにも羊毛が」というテーマでお届けいたします。

さっそくですが、ここで1つ質問です。

「羊毛」と聞いて、どんなモノを思い浮かべますか?

例えば

セーター、布団、カーペット、只々もふもふ…など、色々思い浮かべられるのではないでしょうか。

じつは羊毛は、かなり多様なことで使われています。

今回はそんな「これも羊毛だったんだ!」というものを3つご紹介しながら、

羊毛の多能性を楽しんでいただければと思います^^

それでは参ります↓

◇その1 「ピアノ」

みなさんご存知のピアノ。

ピアノは箱の中にある弦を叩いて音を響かせている楽器です。その弦を叩く部分を「ハンマー」といい、弦に触れるところは羊毛100%で作られています。

羊毛の特徴である『縮絨・フェルト化』がされたとき、弾力を持った硬さが生まれます。

その硬さが、鍵盤からの打力を弦に伝えるのに適しているとされています。

◇その2 「テント」

羊を連れて大草原を移動するモンゴル。

住居として使われているテント『ゲル』は、大きな羊毛フェルトの生地を使い組み立てられています。

フェルトを作るには、「温度・アルカリ成分・摩擦圧力」の3つが必要となります。

テントにするくらいの大きな生地は、丸めた生地を馬に引かせて転がしたという製法もあります。

羊毛には繊維の性質から『断熱性と撥水性』を備えており、草原の冷たい空気もストーブとテントでしのぐと言われています。

◇その3 「埋葬装身具」

シベリアの山脈にある約2000年以上前の墓から、地位の高い女性の遺体が発見された時、身につけていたのがフェルトの帽子であったといいます。

かつて家畜としての羊は今よりはるかに大きな富そのもので、地位の高いもの、国が管理するものなど、その重要性は大きいものでした。


いかがでしたでしょうか。

意外なところ、重要性の違いなど、多様な羊毛の姿を感じていただけましたでしょうか。

現代でも羊毛は、スーツなどの衣類、断熱材としての建材、日常を楽しむ小物素材など、多岐に渡って人の暮らしに恵みを分けてくれています。

今流行りのサウナでかぶる「サウナハット」も羊毛からできているものがありますよ^^

次回はそんな羊毛の多能な特性、「羊毛の7つの機能」からお届けしたいと思います。



[参考書籍]

サリー・クルサード「羊の人類史」 青土社2020

島村楽器公式ブログ2010.6.28「ピアノ再生物語」


2021/04/26

毎月11日更新

はじめまして。

これから約1年間、このひつじコラムを担当いたします、日本羊毛フェルト協会認定作家の嶋浦顕嶺と申します。

屋号は『Ovis Lamp』と冠して、羊毛で照明を製作しております。

さてこのひつじコラム、どのように書いてお伝えしていこうかと思っているのですが、

私はまだ羊と関わり始めて2年程の新参者ですので、

その中で体感した素直で新鮮な感覚をお伝えするところから、始められたらと思っております。

私は羊毛という素材を用いた作品製作から羊との関わりを持ち始めたのですが、

この日本羊毛フェルト協会でも学ぶ「『羊』とはどんな生き物か」という歴史の上流源流を知っていくと、

人と羊のお付き合いがこんなにも長く密接なものだったのか!と驚きを覚えます。

羊と人は、聖書にも登場するような古く長い歴史があり、その始まりは1万年以上前とも言われています。

最初は野生の羊を狩猟で獲っていたことかと思われますが、

羊に備わっていた性質から、ほどなく人は家畜として羊から恵みをいただくようになっていきます。

例えばその毛は、時に民衆の靴の中敷きになったり、軍隊のベレー帽になったり、はたまた遊牧民のテントや絨毯になったりと。

世界の歴史の時々で、それぞれの土地で、人は羊からの恵みを活用させてもらってきました。

それはいわば、伝統的な文化ではないかとも感じるのです。

その文化をいま現代に、伝わってきた歴史の一端に、関わり触れるこの羊との世界。

それはとてもおもしろく、興味深く。

過去の流れとこれからの未来に、様々な可能性が広がっていくような想いを

今日もこんこんと抱いています。


来月は「こんなものにも羊毛が(仮)」をお届けします。 

嶋浦顕嶺(しまうらあきお)

文系大学卒業後、インテリア会社に就職。約9年物流・店舗管理業務に従事。その後埼玉県飯能市にある照明工房に入社。

約2年間LEDを中心とした照明電工、木工を学ぶ。2019年独立し、Ovis Lampを設立。

URL  https://www.ovislamp.jp